エネルギー問題考えるヒント 生活の中に
書評:神津カンナ著「冷蔵庫が壊れた日」
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2014年6月6日付)
エネルギー問題はとっつきづらいと言われる。電気の物理的・技術的特性のみならず、外交や国際情勢、環境問題、経済学など幅広い視点が必要であり、どこからどうアプローチすれば「正解」に辿り着けるのか皆目見当がつかない。そもそも正解などない、全てバランスの中で決する必要があるなどと言われれば、○×テストで育ってきた日本人は途方に暮れる。しかし現実社会では、エネルギー問題と同じく様々な視点からのアプローチを必要とし、バランスを取りつつ判断すべき問題が数多くある。ほとんどそうだと言っても過言ではないだろう。
著者はハンバーグをこねながら電源のベストミックスについてふと考えこむ。具材それぞれの個性を把握して配分を考え、上手くまとめ上げる作業を、原子力や火力、再エネのミックスと重ねあわせる。家計や家族の健康・嗜好によって具材の配分を変えねばならないことを、資源の有無や産業構造、人口、気候、地形など様々な要素に応じてエネルギーの配分を考える難しさになぞらえる。
高機能の最新商品による「不便」を通じて、商品開発者の想定の限界を指摘するエピソードは、生活者の視点や電力供給の現場から乖離した会議室で進む電力システム改革議論への警鐘ともとれる。
日々の生活の中に、コンセントの向こう側を考えるきっかけはいくらでもあるのだ。そう考えると、消費者にエネルギー問題をとっつきづらいと感じさせてしまった原因は、エネルギー問題をエネルギーの切り口でしか伝えてこなかったことにあるのかもしれない。
ことに、著者が指摘する通り、原子力については推進派と反対派双方が、大多数の迷える中間層を置き去りにしてきてしまった。このことが現実感の乏しい貧弱な議論がまかり通る現状をもたらしたのではないか。
「通訳者」としての反省と自戒を込めてこの問題点を指摘する著者の真摯な姿勢は、改めてエネルギーという究極の生活財について、どのように社会的議論を形成していくかのヒントを与えてくれる。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
「冷蔵庫が壊れた日」
著者:神津カンナ(出版社: ワック)
ISBN-10: 4898314244
ISBN-13: 978-4898314241