GHG削減には、全体最適の視野が大切(2)

製品等を通じたGHG排出削減貢献量評価


一般社団法人日本化学工業協会 技術部長

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 前回は、GHG排出削減における、製品の原料採取から製造・使用・廃棄に亘る全体最適の視野の重要性及び、その可能性の大きさについて紹介した。
 今回は、全体最適の視点から、化学業界が推進したGHG排出削減政策に適用するための具体策について、紹介する。

2、日化協におけるcLCA手法の活用

 化学製品の適切な使用方法は、地域により異なる。寒暖が激しい地域では、断熱材の使用が効果的であるし、雨が少なく日照時間の長い地域では、太陽電池の活用が効果的であるし、風の強いところでは、風力発電の活用が効果的である。cLCA手法を活用した政策は、地域ごとに異なることから、日化協においては、日本におけるcLCA手法の活用を進めることとした。
 日化協 技術委員会の下、LCA ワーキンググループを設置し、日化協会員企業13社と化学産業団体1協会の参加で作業を進めた。
 2010年8月に経済産業省より、地球温暖化対策のための中期目標として、「新成長戦略」の工程表が公表されたことを受け、この工程表を考慮し、日本国内における具体的な化学製品の事例を評価し、2020年における政策がCO2の排出状況に与える影響を示すことに重点を置いた。

 作業にあたり、

経済産業省「新成長戦略」の工程表を尊重し、その対象期間である2020年を目標年度として採用した。
2020年における、国内の具体的な化学製品の使用による正味のCO2排出削減貢献量を定量化した。

 評価対象は、

国内に製品のライフサイクルインベントリー(LCI)データがあること。
2020年における製品の普及予測を設定できること。
ICCAレポートにおいて、化学製品使用による正味の排出削減効果が大きいこと。

を考慮し、とりあえず9事例の研究をした。
 採りあげた製品事例は、

再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電)
軽量化による燃費の向上(自動車、航空機)
省エネルギー(LED、住宅用断熱材、ホール素子、配管材料、海水淡水化)

である。
 研究結果は、2011年7月 「国内における化学製品のライフサイクル評価」として冊子を出版した。

3、cLCA手法活用のためのガイドライン
3-1、 国内版の開発

 具体的な製品事例での研究をしたことにより、製品のライフサイクル評価の難しさを体験した。特に、削減貢献量の算定におけるデータ入手の困難性、算定範囲の明確化等算定において多くの検討事項があることを認識した。
 研究結果の社会へのインパクトの大きさを考えたとき、今後多くの企業・関係団体での研究にあたり、cLCA手法のガイドラインの必要性を認識し、日化協 技術委員会の下で結成されたLCAワーキンググループの次の作業として、製品によるCO2削減貢献量算定のためのガイドライン作成を開始した(参加企業は日化協会員企業17社と化学産業団体3協会)。
 この作業においては、化学産業がcLCA手法を使ってCO2排出削減貢献量を算定するときの、実践上の留意事項を抽出し、整理し、その手段の統一基準を提示することを目的とし、

手法・算定方法の違いによる結果のばらつきの防止
算定結果の透明性向上
算定結果の信頼性の向上

を得ることに注力した。
 算定結果の精度については、環境や世の中の状況が変化すればそれに応じて変化するが、算定の透明性が確保できていれば、誰でもその結果を再計算できるし、必要があれば算定結果の更新も容易になり、経験が積みあがってくる。
 製品のライフサイクルすべてのCO2排出量情報を得ることは、多くの場合困難であるので、簡易算定法を定義し、データの透明性確保ができる範囲で多くのケースで適用が可能なガイドラインを目指した。

 貢献量の配分についても議論したが、GHG排出削減が様々なバリューチェーンパートナーの連携を通して実現される場合がほとんどである。バリューチェーン間のそれぞれの貢献には、定量化しやすい貢献と、数値化しにくい貢献(アイデア等)があり、それぞれの貢献を公平に反映する配分方法について、見出すことができなかった。更に貢献量の配分を意識すると、産業の部門間での配分が原因で、製品のライフサイクルでGHG排出削減を検討するコンセプトそのものの議論に支障をきたすことにもなるので、このガイドラインでは貢献量の配分は行わないこととした。
 LCAワーキンググループの成果は、2012年2月「CO2排出削減貢献量算定のガイドライン」と題する冊子にして発刊した。
 ガイドラインができたことで、このガイドラインに沿って、先に研究した国内9事例に2事例加え、更に海外3事例を加え再評価し、2012年12月「国内及び世界における化学製品のライフサイクル評価」と題して英語版も合わせて作成し出版した。

3-2、 グローバル版の開発

 cLCA手法のガイドライン作成により、汎用性が広がったことで、グローバルな活動に広げるべく、ICCAの参加企業に呼び掛けたところ、WBCSDの化学セクターに参加しているメンバーからも賛同を得られ、ICCAとWBCSD 化学セクターの協働によるグローバルガイドライン作成の作業が始まった。
 WBCSDは、従前より世界資源研究所(WRI; World Resources Institute)と協力し、GHGプロトコルイニシアティブの下で温室効果ガスの排出量算定の各種標準を作成している。これらの標準の中で、温室効果ガス(GHG)の排出量の算定、報告に関するものとして事業者から直接排出されるGHG排出量を算定するスコープ1、事業者等で使用される電気等により、間接的に排出されるGHG排出量を算定するスコープ2、スコープ1,2以外の事業者のサプライチェーンにおける事業活動に関する間接GHG排出量を算定するスコープ3が発行されている。またカーボンフットプリント等、製品・サービスのライフサイクル全体を通して排出されるGHG排出量算定の基準としてGHG プロトコル、ISO基準が発行されているが、ISO基準においては環境評価指標を製品間で比較し、その違いを議論するいわゆる比較主張を行うことは厳しく制限されている。これは一方の製品を有利に評価するために勝手なことをしていないか等、第三者が客観的に判断できることを求めていることによる。私たちが目指している製品の比較により算定する削減貢献量(Avoided Emissions)はまさに、この比較主張に関連するものである。グローバルガイドライン作成の過程でも、専門家によるレビューをお願いしたが、比較主張には非常に厳しいレビューがなされなければならず、慎重に進めることが大切である等のコメントをいただいた。
 難しい課題に挑戦していることは認識しているが、GHG排出削減という大義の下、私たちはこの難しい課題に取り組んでいる。これまで、カーボンフットプリント等で、いろいろな製品のライフサイクルで排出されるGHG排出量のデータが整備されてきている。これらのデータがGHG排出量削減に有効に利用されるためには、データの利用における方法論の整備が非常に重要である。私たちはこれまでの研究で、ライフサイクルを俯瞰した全体最適の視点でGHG排出削減を考えることの重要性を見出したが故、この難しい製品の比較を進めるための方法論の整備に乗り出したのである。一貫性のある算定・報告によって結果の信頼性と比較可能性の向上を目指したものである。第三者の皆様に議論していただくため、データの透明性には特に注意を払うことをガイダンスでは要求している。また、今後いろいろな方からのご指摘を採り入れ、より使いやすいガイダンスに向けて内容を更新していく予定である。
 ICCAとWBCSD化学セクターとの協働作業は約1年半続き、専門家からの製品の比較に対するコメントを考慮し、2013年10月「Addressing the Avoided Emissions Challenge」と題して発行した。日本語タイトルは化学業界による「GHG排出削減貢献に対する意欲的取り組み」となっている。
 グローバルガイドラインが出来上がったところで、日化協で発行してきたこれまでの事例研究も見直し、グローバルガイドラインに沿った事例研究として、新たに6事例追加し2014年3月 「国内および世界における化学製品のライフサイクル評価」第3版を発行した。

意欲的な取り組み
新たな視点

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