環境と経済が両立に向かう『土壌汚染対策』とは(その9)

土壌汚染対策法の改正に向けた提言(2)


株式会社FINEV(ファインブ)代表取締役

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 土壌汚染対策法と関連法制度の見直しに関するもう一つの提言は、②諸外国と同様に土壌汚染に関する経済的な影響を考慮した制度を導入し、汚染サイトを浄化・再開発するプロジェクトに公的支援の仕組みを導入することです。

② 汚染サイトを浄化して再開発するプロジェクトへの公的支援の仕組みの導入

 土壌汚染や地下水汚染の懸念がある土地の再開発は、連載第2回で紹介したようにブラウンフィールド開発として知られており、90年代から米国で政策的に進められてきました。
 もともと米国では、1980年に土壌汚染の法制度が策定されてから、国に約1000億円の基金を設定し、調査や浄化対策を支援すると共に、新たな浄化技術の研究開発も活発に行っています。バイオや植物を活用した浄化技術も開発されました。不動産取引における土壌汚染調査の枠組みは民間で広く活用され、現在では世界的に活用されるデファクト・スタンダードとなっています。
 その後、汚染サイトを浄化するだけでなく、土地の再開発をして地域再生を行うプロジェクトが進められるようになり、全米にモデル都市を公募して、荒廃した地域の都市開発が進められました。
 クリントン政権時に進められたブラウンフィールド・イニシアティブは、ブッシュ政権時に法制化が行われ、通称:ブラウンフィールド法として成立しました。汚染サイトの関係者の責任免除規定を明確化し、浄化費用にかかる保険料にも半額まで補助金がでるようになっています。
 近年ではオバマ政権が法制化したアメリカ復興・再投資法、いわゆるリカバリー法では、600カ所以上の汚染サイトの調査に補助金を提供し、その後の浄化や再開発を促進しました。

 汚染土地の浄化と地域開発を進める政策は、近年欧州でも進められています。EUでは2020年までに環境保全と経済成長を両立させるための政策を打ち出しており、7月初めに2020年、2030年に向けたグリーン成長戦略を公表しました。この成長戦略にも含まれている地域開発基金は、ブラウンフィールドサイトの浄化と再生を優先テーマの一つとしており、アウトプットの指標として土地の再生面積を評価することとしています。
 欧州ではオランダやイギリス、ドイツなどで国が資金を出して土壌汚染の調査や浄化を進めていましたが、ブラウンフィールド開発における地域経済活性化の効果を期待し、環境保全と経済成長を両立させる政策として欧州でも取り上げられるようになっています。7月初めに公表された欧州の成長戦略とも整合する政策になっています。

 これまで日本国内にはそのような政策が進められていませんでしたが、少なくとも諸外国と同等の政策として以下のような仕組みを提言したいと思います。

(1)
土壌汚染の調査費用に対する補助をする。

調査費用に対する補助金は多くの国で実施されています。耐震診断や省エネ診断などと同様に、初期の調査が進むことにより、環境保全の確実な実施に加え、土地の評価や投資判断にも活用することができ、様々なプラスの効果をもたらすことになると考えます。地下水汚染や土壌の状況を把握することで、地域別の自然由来の土壌汚染の状況も把握でき、また不動産取引等においてもより安心した取引が可能になります。

(2)
汚染原因者以外の土地購入者が土壌汚染を適切に対策して土地を開発する場合のインセンティブを付与する。

米国では州別に様々なインセンティブや政策があり、土壌汚染のある土地を浄化し、再生する事業が進められています。例えば、浄化費用を将来にわたって固定資産税から免除する、事業所税と相殺するといった浄化費用への優遇税制も行われています。また雇用創出効果に応じた優遇税制や地域に応じた政策支援を行っている州も多くなっています。
第2回でも紹介したように、イギリスでは汚染サイトを買取った法人に対して、浄化費用を150%損金算入できる優遇税制を適用しています。

 さらに具体的には、以下のような仕組みの導入も提言したいと思います。

 国際的に自然資本への関心も高まり、環境配慮を進めながら事業やプロジェクトを進める動きは今後も継続されるでしょう。その中で、どのくらい環境保全を進めているかを定量的に評価する重要性も高まっています。
 日本では土壌汚染対策法の対象が限定的であり、大部分の土壌汚染対策は民間で行われてきたため、国全体で汚染された土地の再生がどの程度行われているのか、その統計データもありません。今後、国際的にも日本の環境への取り組みをアピールするうえでも、国内で浄化が進められた土地の状況が把握できていないことは説得力に欠けることにもなりかねません。
 したがって、土地の環境情報として調査を行い、汚染の有無や浄化を実施し、すでに汚染がない状態である等、その状況を不動産情報として引き継ぐ仕組みの導入も求められると考えます。
 また、土地の浄化を進めるための資金には、現在海外でも急速に成長しているグリーンボンド(グリーン債券)等を活用し、浄化後の環境状況を評価していく仕組みも活用が期待されます。これらの取組は、将来的に日本から海外への政策パッケージとしての輸出も可能であると思われます。
 こうした取り組みを、特区等を活用して実施し、2020年のオリンピック開発にもつなげていくことが国内外への普及推進にも有用であると考えます。

(参考)実施計画に向けた具体的提案として

【浄化済のグリーン土地(不動産)ラベル】
建物の環境配慮についてはCASBEEなどの認証制度があるが、土地の浄化及び建物を一体としたグリーン不動産に関する証書やラベルを策定し、土壌汚染の状況に応じたラベルを策定する。たとえば、形質変更時要届出区域の土地においても、一定の利用条件に基づくラベルによる分類を行い、その条件のもと利用できる土地として、土地利用証書を発行する。
【グリーンボンドの活用】
土壌汚染の浄化及び開発時、開発後の環境配慮等の指標を整理し、グリーンボンド(環境配慮型債券)発行に向けたガイドラインを策定する。今後の国内グリーンボンドの普及に資する仕組みを構築する。
【国家戦略特区の活用】
東京オリンピックに向けた整備地区に加え、湾岸地域の工場跡地、インフラ整備等の開発を推進する地域に、軽微な汚染を管理しながら土地開発を進める仕組みを導入し、上記グリーンボンドやグリーン土地のラベルを組み合わせ、汚染土地再生の枠組みを確立する。その際、費用便益評価等の効果検証、及び土壌浄化、開発等における課題整理を含めた事業性評価を行う。

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