欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感(その5)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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欧州エネルギー安全保障戦略

 本年5月末に欧州委員会が発表した欧州エネルギー安全保障戦略案の主要なポイントは以下のとおりである。

インフラ(特にネットワーク)の整備を含む域内エネルギー市場の整備
ガス供給源とルートの多角化
緊急時対応メカニズムの強化
自国エネルギー生産の増加
対外エネルギー政策のワンボイス化
技術開発の促進
省エネの促進

この中で注目される点をピックアップしたい。

域内エネルギー市場整備のためのインフラ整備

 第1に域内エネルギー市場の整備のためのインフラである。先ほどバルト三国、東欧、フィンランド等においてロシア依存度が極めて高いことを紹介したが、その大きな理由はこれら諸国のガス供給ルートがロシアからのパイプラインに限定され、他の西欧諸国と接続していないことによる。欧州委員会は域内エネルギー市場整備のための33の重要プロジェクトを特定しており、そのうち27がガス関連である。これによりバルト三国、東欧、更に南西欧州(他の欧州諸国から孤立したポルトガル・スペイン)との接続を強化しようとしている。

欧州の天然ガスパイプライン・LNGインフラ

欧州の天然ガスパイプライン・LNGインフラ

欧州の優先的エネルギーインフラ整備構想

欧州の優先的エネルギーインフラ整備構想

 補強が必要であるとはいえ、国境を越えるエネルギーインフラの存在は、各国がお互いの強さ、弱さを補うことを可能にし、欧州の大きな強みであり、これこそEUワイドの対応が最も必要な分野だろう。日本と近隣諸国のことを考えると羨ましく思える。脱原発、再生可能エネルギー推進を標榜したドイツは、必要に応じ、フランスやチェコから「原発で汚染された」電力を輸入し、オランダやベルギーのグリッドに風力発電で余った電力を流し込んでいる。欧州という大きな池の中でのドイツの位置づけを考えずにドイツの脱原発を日本のモデルとして礼賛することは全く無意味である。