英国と原子力(その2)
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
この上院議員のコメントに対し、私から「温暖化懐疑論が台頭すると原子力への支持基盤が揺らぐというご指摘であるが、日本では厳しい温暖化目標を主張する人々の多くが、同時に原発の新設はおろか、再稼動に反対している」と紹介すると、この上院議員は目をむいて「それではどうやって温室効果ガスを削減するのか」と聞いてきた。「再生可能エネルギーと省エネルギーだ」と応えたところ、彼は口をあんぐりと開けて(まさしく英語表現に言うjaw dropである)頭を左右に振った。ディスカッションに参加していた他の出席者からは「どんなシナリオでも論理的には可能だ。しかし、原子力を再生可能エネルギーと省エネだけで代替するという議論は、 affordabilityの視点を欠いているのではないか」とのコメントがあった。
ディスカッションではそれ以外にも単位発電量当たりの死者数で見ると石炭火力が最も高く、原子力は太陽光発電よりも更に低い(意外に思われるかもしれないが、太陽光パネルを屋根に装着する際に転落死するケースがあるらしい)という調査結果や、福島事故後に適用された線量基準を適用すると英国南西部の景勝地として名高い一方、自然放射線による平均被曝量が英国平均を大幅に上回るコーンウオールの住民は全員退避しなければならないといった論点も紹介された。
「それはそうなんだけれど・・・・日本では原子力を感情論抜きに議論できる土壌がまだ十分できていない」と返しつつ、原子力に関する議論の成熟度に関する彼我の違いを改めて痛感したのであった。