環境と経済が両立に向かう『土壌汚染対策』とは(その6)
経済問題との関連①:土地取引・訴訟・鑑定評価等
光成 美紀
株式会社FINEV(ファインブ)代表取締役
2003年の土壌汚染対策法施行以降、不動産取引、鑑定評価、企業会計等において土壌汚染に関する様々な実務ルールが策定されていますが、土壌汚染は不動産取引や企業経営を通して社会・経済的な影響が出ています。
≪土地・不動産取引≫
海外では、基準を超える土壌汚染がある土地の売買について承認等が必要な国もありますが、日本では、土壌汚染がある土地においても、市場で当事者間が合意することにより不動産売買は可能となっています。
ただし、法対象の土壌汚染については、不動産取引前に情報開示の義務があります。
具体的には、土壌汚染対策法の施行と同時期に、宅地建物取引業法施行令の一部が改訂され、土壌汚染がある区域(指定区域)である場合、不動産取引の契約書策定前に、宅地建物取引主任者によって説明及び提示される重要事項説明書に、指定区域であることを記載・説明することが義務付けられました。
改正法以降指定区域が二分されたため、法令に基づく制限の概要として、土壌汚染対策法の「要措置区域」または「形質変更時要届出区域」に該当するか否かを記載することになっています。
また、上述重要事項の説明に記載されている項目だけでなく、「顧客の判断に重要な影響を及ぼす事項」について説明(告知)する義務があるとされています。
≪マンションや不動産証券(REIT)物件≫
マンション事業の土壌汚染対策については、2001年に不動産協会においてガイドラインが策定されました。大手不動産会社においては、マンション事業における土壌汚染調査、浄化等の措置、対策、買主への告知等の取組が実務的に定着しています。
また、証券化対象不動産については、1998年資産の流動化に関する法律の施行、2000年の改正を受け、専門家による土壌汚染調査を含めたエンジニアリング・レポートが必要なことから、土壌汚染調査や対策、リスク情報の開示等が行われています。エンジニアリング・レポートに含まれる土壌汚染リスク評価は、いわゆるフェーズⅠ調査と呼ばれる米国材料検査協会(American Society for Testing and Materials, ASTM)のE1527シリーズに類似又は準じた調査となっており、国内の土壌汚染対策法における資料等調査とは若干異なります。
≪企業の不動産取引≫
大手企業間の不動産取引においても、購入前に土壌汚染調査を実施することが実務上は慣例となりつつあります。調査方法は、各社の方針に基づき、土壌汚染対策法に基づく調査か、ASTMフェーズⅠなどに基づくのか、また個別案件により異なる場合もあります。土壌汚染の懸念がある場合には、表層土壌等の分析を行いますが、 この場合は、土壌汚染対策法に基づく手法で実施することが多くなっています。
調査によって基準を超える土壌汚染が判明した場合には、購入者が所有権移転前に土壌汚染が完全に除去することを確認したいという意向が強いため、掘削除去等による手法が活用されることが多くなっています。
このように、企業や不動産開発会社が関わる土地取引や土壌汚染対策法の対象となる土地については、当事者間で土壌汚染調査が実施され、また浄化対策等が講じられるようになっています。
しかしながら、土壌汚染対策法に基づき実施されている土壌汚染調査や対策は、実際に実施されている調査や浄化対策全体の1割に満たないのが現状です。したがって、住宅等を含む大部分の不動産取引においては、現在でも土壌汚染の状況調査を実施していないと考えられます。こうした状況のもと、不動産取引に関連した訴訟等は継続的に発生しています。