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欧州環境エネルギー補助金ガイドライン見直しをめぐって


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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 ブラッセルのシンクタンク Friends of Europe の主催するワークショップ 「Energy Subsidies: To be or not to be 」 に参加してきた。こうしたワークショップが開催されるには背景がある。

 欧州委員会は4月に「2014-2020年の環境・エネルギー関連の国家補助金に関する新たなガイドライン」を策定した。これは2008年に策定された環境保護のための国家補助金に関するガイドラインに置き換わるものであり、従来の環境に加え、省エネ、再生可能エネルギー、コジェネ、CCS、エネルギーインフラ等も対象に含めた包括的なものである。各国の環境エネルギー分野の補助政策がこのガイドラインで規定される国家補助金に該当する場合、欧州委員会への通報を義務付けられる。欧州委員会は域内の有効競争、各支援措置の比較可能性(comparability)の観点から、当該国家補助についての審査を行うことになる。

 このガイドラインが注目されるのは、再生可能エネルギー等、特定の政策目的推進のための国家補助のあり方についても定めていることである。再生可能エネルギーの場合、国家補助の必要性を認める一方、これまでの欧州諸国の再生可能エネルギー推進策が過剰補助、消費者負担の増大、エネルギー市場の非効率化をもたらしたとの理由で、より効率的で市場メカニズムとリンクした補助に改めるよう求めている。具体的にはドイツに代表される固定価格購入制度(Feed In Tariff)を、電力市場で決まる価格に一定のプレミアムを上乗せする制度(Feed In Premium)もしくは再生可能エネルギー証書制度(Certificate system)に改めることが求められている。また2017年からは再生可能エネルギー補助は入札プロセスにかけられることになる。競争促進の観点からは異なる再生可能エネルギー間の競争も許容し、特定技術をつまみ食いしない技術中立性(technical neutrality)を確保するのが本来の姿だが、一定条件下で太陽光、風力等、技術毎の入札が許容されている。この部分については欧州委員会が太陽光ロビー、風力ロビーに譲ったということだろう。

 このようなガイドラインが策定された背景には、近年、欧州のエネルギー環境政策が抱えるジレンマがある。欧州はエネルギー安全保障、温暖化防止、エネルギー価格の安定、国際競争力の維持を目指しているが、具体的なエネルギー政策はブラッセル発の欧州指令と各国独自のエネルギー政策の合わせ技となる。各国のエネルギー事情が異なり、原子力に典型的なように特定エネルギー源に対するポジションも異なる。これに伴い、補助金を中心とする各国の政策もばらばらになりがちである。他方で欧州各国は電力網で結ばれ、国境をまたぐ電力取引が盛んに行われている。欧州委員会はエネルギー安全保障、効率確保双方の観点から各国間の電力網接続を更に強化し、欧州ワイドの電力市場を目指している。電力が国際取引の対象になる以上、公正な競争条件を確保するために各種の国家補助について何らかのガイドラインが必要になってくる。加えて欧州経済危機、米国のシェールガス革命がほぼ同時に進行し、米国とのエネルギーコスト差が深刻な問題として認識されるようになってきた。更に一般消費者のエネルギーコスト負担も上昇し、英国やドイツ等、各国で政治問題化してきている。再生可能エネルギー推進等の政策目的は維持しつつも、よりスマートな形で費用対効果を確保しようというのが今回のガイドラインの背景といえよう。

 再生可能エネルギー補助の見直しは市場価格+プレミアムにせよ、証書制度にせよ、入札にせよ、いずれも市場メカニズムの要素を再生可能エネルギー補助の中にビルトインしようということである。例えばデンマークでは既に10年近く前、固定価格購入制度から市場価格+プレミアムに移行しており、私も参加した当時のIEAの国別審査において「市場メカニズム導入への正しい一歩」として評価したことを思い出す。

 他方、このガイドラインの決定に至るまでにはステークホールダーからのコメント受付を含め、多くの議論があった。欧州委員会内でも28人の委員のうち1名が反対し、3名が棄権したと言われている。特に、これまで固定価格購入制度で安定的な収入を保証されてきた再生可能エネルギー業界からはすこぶる評判が悪い。今回のワークショップに参加したWWFの以下の議論はその典型である。

エネルギー補助金の中で再生可能エネルギーが占めるシェアは全体の4分の1程度。残りは化石燃料、原子力に対する補助。今回の議論ではマスメディアも再生可能エネルギー補助ばかりを取り上げているが、本当に問題なのは化石燃料、原子力への補助。G20等で何度と無く化石燃料補助金の撤廃がうたわれているのに、一向に実現されていないのは政治の怠慢。今回の見直しも再生可能エネルギーの犠牲の下に化石燃料、原子力の既得権益を守る不公平なもの。
再生可能エネルギーへの補助は透明性が高く、過渡的なものとして期限も設定されている。他方、化石燃料や原子力に対する補助は色々な政策に潜り込んでおり、その全体像が全くつかめないことに加え、終期も明示されていない。
英国のヒンクリーポイント原子力プロジェクトでは政府とEDFの間で92.5ポンド/Mwhの価格が合意(これをstrike price と呼ぶ)されたが、洋上風力とほぼ同等の価格であり、しかも35年間も保証されており、再生可能エネルギー補助よりもはるかに問題が大きい。
エネルギーコストが国際競争力に悪影響を与えるというが、産業界の総コストに占めるエネルギーコストのシェアは5%以下であり、国際競争力はもっと多様な要因で決まる。しかもドイツではエネルギー多消費産業は固定価格購入制度の負担を免除されているのだから、再生可能エネルギー補助が国際競争力に悪影響を与えているという議論は誤り。
スペインや南米等では再生可能エネルギーは補助なしでも競争できるようになっており、これまでの再生可能エネルギー促進策が正しかったことの証左。
ウクライナ危機は再生可能エネルギー、省エネルギーを推進する好機。他方、これに乗じてシェールガスを開発するような動きには歯止めをかけねばならない。

 この議論はある種の「化石燃料・原子力ロビー陰謀論」であり、正直、首をかしげる部分が多かった。彼が主張するように「再生可能エネルギーの競争力がついた」というならば、再生可能エネルギー補助を合理化・効率化しても良い理屈になる。また「エネルギーコストの国際競争力への影響は無視できる」という議論に対しては、同じパネルに参加していた欧州委員会競争総局から「エネルギーコストのシェアが5%というのは全産業平均であり、エネルギー多消費産業ではもっとシェアが高い」との反論があった。更に議長からは「化石燃料補助金の撤廃を言うのは簡単だが、その実現は容易ではない。化石燃料補助とされているものの相当部分は低所得層に対する燃料費補助であり、それを撤廃すれば政府の歳入はあがり、低所得層のエネルギーコスト負担が更に上昇することになる。景気が悪いときに政治的にそんなことが可能なのか」との指摘があった。確かに英国ではfuel poverty とよばれる低所得者向けのエネルギーコスト補助があり、IEAが再三にわたって見直しを勧告しているが、実現していない。来年総選挙があることを考えれば尚更だ。縮小によってエネルギーコスト低減につながる再生可能エネルギー補助金とそこが違う。

 同じパネルに参加していたEDFの議論は以下のとおりであり、エネルギー屋の私にとっては、はるかに常識的な結論に思われた。

欧州経済危機前は電力市場価格も高く、炭素価格もリーズナブルなレベルであったため、低炭素電源への投資を行うインセンティブがあった。しかし、リーマンショック後は需要低迷により電力価格が低下したことに加え、再生可能エネルギーの強制買取により需要が食われ、電力価格、炭素価格の更なる低迷を招いた。
間欠性のある再生可能エネルギーに対応した出力調整を強いられ、高効率ガス火力は採算性を失い、閉鎖を余儀なくされている。他方、炭素価格の低下により、ガス火力の減少を石炭火力で補うという皮肉な現象が生じている。
このような状況は放置できるものではなく、再生可能エネルギーの補助制度をもっとスマートなものにせねばならない。また成熟した技術に補助を出すよりも、エネルギー貯蔵技術を含め、革新的な技術の研究開発に補助を出すべき。
電力部門の脱炭素化を図るためには原子力と再生可能エネルギーが両方必要。太陽や風力は間欠性があり、それのみには依存できず、貯蔵技術は未だにコスト高。原子力と出力が安定的な水力、バイオマス等を中心とし、太陽光や風力を補完的に使う組み合わせが現実的。
ヒンクリーポイント原子力プロジェクトの92.5ポンド/Mwhが洋上風力よりも高いことはあり得ない。EDFは原子力も再生可能エネルギーもやっているが、洋上風力のコストは150ポンド/Mwhであり、条件のよいものでも100ポンドを下回ることはない。
ウクライナ危機に対応するためには短期的にはシェールガスを含むガスの供給源多様化しかないだろう。

 1時間半ほどの短いセッションであったが、色々考えさせられるところがあった。黙って聞いているのもつまらないので、質疑応答の際、「日本ではドイツをモデルに固定価格購入制度を導入したばかり。その意味で欧州で生じている再生可能エネルギー補助の見直し動向を興味深く注視している。仮にタイムマシンで5-10年前に戻って過去の政策をやり直せるとしたら、やはり固定価格購入制度を最初に導入し、それから市場メカニズムを導入する方向に持っていくか、それとも最初から何らかの市場メカニズムをビルトインする等、もっと良いやり方があったと思うか」という質問をぶつけてみた。これに対する欧州委員会競争当局のスピーカーの答えは「固定価格購入制度でも購入価格を漸減する等のコスト削減措置が盛り込まれていたが、結果的に過剰補助になってしまった。その意味で我々は教訓を学んだ。入札を通じて異なる再生可能エネルギー源同士の競争を促進することも有効だろう」というものであった。

 ワークショップ終了後、欧州議会の緑の党の議員スタッフが近づいてきて「ドイツの固定価格購入制度は再生可能エネルギー普及の初期段階では非常に有効であった。日本もこれから再生可能エネルギーを伸ばすならばドイツ型の制度が最適だ」と力説していた。私は個人的見解としつつ、「ドイツが固定価格購入制度を導入した2000年代初めと今とでは状況が違う。ドイツの先行的な取り組みにより再生可能エネルギーの需要が拡大し、コストが低下しているならば、それを踏まえた制度であるべきであり、14-5年前と同じ政策を繰り返す必要はないのではないか」と答えた。

 色々なところで言っていることだが、欧州のエネルギー政策は良くも悪くも先行事例の宝庫である。日本は「後発のメリット」を最大限活用すべきであり、この欧州の補助金見直しの動向も貴重な示唆を与えるものだと思う。

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