環境物品の自由化交渉、日本は欧州産業界などと連携を
福島事故は新たなビジネスチャンスもたらす可能性も
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
―― 私たちにはピンチにしか思えませんが(笑)、『新たなチャンス』を詳しく教えていただけますか
「チャンスには3つのポイントがあろうかと思います。1つはイノベーション(技術革新)です。気候変動問題に対応するため、化石燃料をいかに効率的に使用するかが重要となる中、日本は発電分野ですばらしい技術を持っています。日本で火力発電の比率が増大する中、福島事故が火力発電分野でのさらなるイノベーションの契機になる可能性があります。2 つ目は省エネです。建築物、物流、農業など経済全体でエネルギー効率を高めていかなくてはいけません。日本の産業界は世界にも類を見ない省エネ型発展を遂げてきました。この経験は、日本の産業の大いなる競争力であり、それをさらに高める大きなチャンスになってくると思います。3 つ目は再生可能エネルギーの利用拡大です。日本は地熱発電について、米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源量を誇っています。また、地熱タービンの世界シェアで日本企業の存在感は絶対的です。そして、風力発電でも浮体式洋上方式の実証事業に取り組むなど、かなり先進的な技術を持っています。こうした再エネの利用拡大には、投資と政策によるマッチングといった後押しが必要であり、貿易政策も重要な役割を果たします。風力発電設備や地熱発電設備の部品や材料を国際調達する際は、貿易政策も大きく関わってくるからです」
「また、日本にとりパナマ運河の拡張もエネルギー多様化へのチャンスになります。カリブ海やメキシコ湾岸から日本に天然ガスを輸送する場合、現状では南米最南端をグルッと迂回しなくてはならず、コスト高になっています。現在行われているパナマ運河の拡張工事が完了すれば、天然ガスの輸送コストを下げることができ、エネルギー供給源の多様化も図ることができます。これは日本にとって大きなチャンスになると思います」
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- パナマ政府は当初、14年中に運河の拡張工事を完了させる計画だったが、15年末~16年初めまで遅れる見通し。日本政府は、パナマ政府に早期拡張を要請する方針だ。パナマ運河を航行できる船舶の最大幅は現在、約32mだが、拡張後は49mになる。幅が40m以上ある標準的なガス輸送船が通れるようになり、米東海岸に集中するシェールガスの輸出基地から最短距離で日本に輸送できるようになる。
―― おっしゃるとおり、日本には様々な高効率技術があります。石炭火力発電所、鉄鋼のプラントなどはよく知られていますが、民生部門でも断熱効果の高い窓や、最近では遮熱効果のある塗料など、様々な技術が開発されています。今回の動きを見せている環境物品自由化交渉の成果などにより、日本が得意とするこれら技術の市場は広がっていくと期待していいでしょうか
「貿易自由化の進展は、国際市場で日本企業が競争力を高めていく好機になると思います。私たちICTSDでは、エネルギー効率の高い物品・技術や、エネルギー供給サイドの高効率な技術を貿易自由化交渉の対象にするべきだと提案しています。APEC(アジア太平洋経済協力)でも環境物品の自由化交渉が進んでいて、関税引き下げの対象とする54品目について合意がなされました。この中に前述したような分野のものは現時点では十分に入っていませんが、APECは対象品目を拡大していく方針のようですので、今後対象に入ってくることが期待されます。EUと米国の二国間自由化交渉(TTIP)でも、エネルギー供給サイドの高効率な物品を、優先度を持って交渉対象にしていくと聞いています」
「日本もEUとの二国間自由化交渉の中で、エネルギー供給サイドの高効率な技術などを自由化の対象にしていくことが大切です。EUの中には石炭や天然ガス火力が主体である国も多くあります。そのことが、EU市場での日本の競争力を高めることになります」
「また、WTO(世界貿易機関)といったマルチの交渉で進めるだけでなく、TPP(環太平洋経済連携協定)やRCEP(アールセップ=東アジア地域包括的経済連携)といった複数国による自由化交渉の場を活用することによって、日本はよりダイナミックで巨大な市場をターゲットにしていけるかと思います。RCEPには豪州、ニュージーランド、インドなど日本にとって魅力的な市場を持つ国が入っています」
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- RCEP は、ASEAN(東南アジア諸国連合)に日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランドの6カ国を加えた計16カ国が参加する広域的な包括的経済連携構想。