私的京都議定書始末記(その42)

-最後の「二押し」とカンクン合意の採択-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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全体会合におけるスタンディング・オベーション

 10日午前3時にドラフティング会合が終わって以降、我々はCOP決定、CMP決定の最終案が配布されるのをひたすら待ち続けていた。この約14時間の間に、議長国メキシコは全体会合での採択を確保するため、丹念な根回しを行っていたのだと思う。メキシコの頭の中には、コペンハーゲン合意が首脳間で合意された直後に、全体会合を召集し、1時間で中身を吟味して承認するよう求め、結果的に合意形成に失敗したデンマークの姿が焼き付けられていたに違いない。

 確かに少人数会合の面々はそれぞれの交渉グループを代表する面々が参加していたが、彼らが合意結果を持ち帰り、中をまとめる時間を与えることは極めて重要だった。また事実上、コペンハーゲン合意をCOP決定に昇格させることになるため、コペンハーゲンで大暴れしたALBA諸国に対する根回しも不可欠だった。この点、中南米に位置するメキシコは、ベネズエラ、ニカラグア等を説得しやすい立ち位置にあったと考えられる。

 いずれにせよ、6時過ぎにエスピノーザ外務大臣が登場したときは、全員が立ち上がって拍手で彼女を迎えた。拍手はなかなか鳴り止まず、エスピノーザ外務大臣は胸の前で両手を組み、感謝の意を表明した。全体会合はまず非公式会合の形で開催され、日本を含め、多くの国がフロアをとり、エスピノーザ議長に謝意を表すると共に、「カンクン合意」を強く支持し、これを採択すべきと発言し、そのたびに大きな拍手がわいた。

拍手で迎えられるエスピノーザ議長

 午後8時過ぎから公式会合に移り、AWG-KP、AWG-LCA、CMP、COPと4つの全体会合が順に開催されていった。そんな中でただ1ヶ国、結論文書の採択に反対を唱えたのがボリビアであった。メキシコの根回し工作もボリビアには奏功しなかったらしい。しかしコペンハーゲンの時と異なり、反対しているのはボリビア1ヶ国である。また文書作成プロセス、少人数会合の結論を消化するための十分な時間の確保等、デンマークと異なり、メキシコの進め方には落ち度がなかった。何よりも各国とも1年前のコペンハーゲンの無残な結果を繰り返したくないという思いが強かったのだろう。