私的京都議定書始末記(その42)
-最後の「二押し」とカンクン合意の採択-
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
事務局長へのレターの発出
10日朝となった。しかしドラフティング会合の結果を盛り込んだCOP決定、CMP決定の全文はなかなか配布されなかった。その間を利用してロシアと共に「駄目押し」の一手を打つこととした。上記の脚注は、締約国が第二約束期間に参加しない政治的ポジションを有し、議定書上の法的権利を有し得ることを記述している。しかし、日本とロシアの立場が明記されているわけではない。そこでロシアと連絡をとりつつ、フィゲレスUNFCCC事務局長宛のレターを発出したのである。日本が坂場地球環境大使名で発出したレターの全文は以下のとおりである。
Japan confirms its readiness to achieve its target for emission reduction of GHG in 2020 in accordance with the Copenhagen Accord.
The submission of the target, dated 26th January 2010, is premised on a new, fair and effective international framework.
The Government of Japan would like to make it abundantly clear that it does not have any intention to be under obligation of the second commitment period of the Kyoto Protocol after 2012. The target submitted by Japan in accordance with the Copenhagen Accord is only relevant in the negotiation of the AWG-LCA not in the AWG-KP.
第3パラグラフは私が起案したものである。これまでのAWG-KPでの交渉を頭に描きつつ、「日本は京都議定書第二約束期間に参加する意志はなく、日本がコペンハーゲン合意にしたがって提出した緩和目標はAWG-LCAに関わるものであり、AWG-KPに関わるものではない」ということを、これ以上ないほど鮮明にした。脚注の挿入と、事務局長へのレターの発出は、京都議定書第二約束期間に決して参加しないという日本の立場を貫くための「最後の二押し」であった。
カンクン合意
10日午後5時過ぎ、ようやくCOP決定、CMP決定の全文が配布された。COP決定はコペンハーゲン合意の諸要素を盛り込み、CMP決定では京都議定書第二約束期間を継続検討する、その全体パッケージが「カンクン合意」である。COP決定に盛り込まれた諸要素は以下のとおりである。
- ①
- 先進国がコペンハーゲン合意に基づき提出した緩和目標を記載した文書(FCCC/SB/AWG/2010/INF X)を作成し、緩和目標をテークノート(同文書に盛り込まれた先進国の緩和目標はCMP決定でもテークノート。ただしCMP決定には「文書の内容が締約国のポジションや京都議定書21条7に基づく締約国の権利に何ら予断を与えるものではない」と脚注で明記)
- ②
- 先進国の緩和目標の実施に関するMRV(測定・報告・検証)に関するガイドラインを強化
- ③
- 途上国がコペンハーゲン合意に基づき提出した削減行動を記載した文書(FCCC/LCA/AWG/2010 INF Y)を作成し、緩和行動をテークノート
- ④
- 支援を求める行動と支援とのマッチングを図る登録簿を設立。MRV(測定・報告・検証)や国際的な協議及び分析(ICA)を規定
- ⑤
- 途上国支援のための新たな基金を設立
- ⑥
- 適応対策を推進するための「カンクン適応枠組み」の設立
- ⑦
- 森林の減少・劣化に起因するCO2の排出削減に合意
- ⑧
- 技術委員会など技術移転メカニズムの構築