地球温暖化対策の不要が、
「脱化石燃料社会」への途を開く
-ポスト京都議定書の国際協議に向けて-
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
横浜でのIPCC会議
この(2014年)3月の末、横浜で開かれたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第二作業部会の第5次報告は、昨秋(2013年9月)発表されたIPCCの第一作業部会の評価報告書の人為起源の温室効果ガス(その主体はCO2、以下CO2と略記)の排出に伴う地球温暖化(以下、温暖化と略記)が単なる仮説ではないとした上で、産業革命以前から今世紀末までに4 ℃以上上昇すれば、地球上の生態系にとりかえすことのできない変化を与えるから、国際社会はいますぐ行動を起こすべきと訴えている(パチャウリ議長)。
しかし、私が先の第一作業部会の報告書を解析した結果から、もし、IPCCの主張が正しいと仮定しても、温暖化の原因となる人為起源のCO2の排出総量が、地球上の化石燃料資源量により制約を受けるから、それが温暖化の脅威をもたらすほどの量に達することはないことが明らかにされた(文献1 )。
途上国と先進国の利害の対立しかもたらさないCO2排出削減の国際協議
先の京都議定書のCO2削減には、排出大国の中国と米国が加わっていなかった。これに対し、ポスト京都の協議では中国、米国を含め地球上の大部分の国が含まれた上で世界各国のCO2排出削減の割り当て目標が決められることが目的とされている。この排出削減目標の設定のための基礎データとしては、地球全体のCO2排出総量と、地球の平均地上気温の上昇幅との関係を定量的に予測したIPCCの第5次評価報告書が基礎になる。
いま、各国の削減目標を決めるに当たって、各国が公平にその削減義務を負担すべきだとして、世界各国の一人当たりの排出量を等しくすることを考える。温暖化の脅威を防ぐことができるとされる地球平均地上気温の上昇幅は約2 ℃とされている(文献2参照)ので、IPCCの第5次報告書のデータから、この地球気温上昇2 ℃に対応する今世紀末までのCO2排出総量の値を求めると3.2 兆トンとなる(文献3)ので、この3.2 兆トンを、今世紀末(2100年)までのCO2排出総量の目標値とする。この値を2010 ~ 2100 年までの90年で割り、さらに2010年の世界の総人口6,870百万人で(CO2排出量の多い先進国の今後の人口増は余り大きくないと仮定して)割って、温暖化防止のために必要な世界各国の公平性を目的とした人口当たりの年間平均CO2排出量の値を求めると5.2トン/人/年と概算される。
一方、IEA(国際エネルギー機関)の統計データ(文献4 )から、2010年の世界各国の人口当たりのCO2排出量は表1に示すように与えられる。この表1から、各国国民が公平に同じ一人当たりCO2排出の権利を持つとすると、全ての先進国が、かなり高いCO2排出削減率(対2010年比)を義務づけられる代わりに、中国を除く全ての途上国はまだCO2排出量を増加する権利を持つことが判る。
- 注:
- *1:
- 2010年の人口当たりのCO2排出量
- *2:
- 世界中が2010~2100年の90年間の年間平均CO2排出量 5.2トン/人/年を守るとして(本文参照)、この値を各国の排出量の値で割って求めた各国の必要削減率(例:日本は(1-5.2/9.05) =43%)。カッコ内数値は、削減を必要としない場合の排出の余裕倍率。