東電を反社会的企業と決めつける、
働く人たちへの視点を欠く経営者

吉原 毅 著 「原発ゼロで日本経済は再生する」 


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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国際収支と燃料輸入に関する誤解

 吉原は国際収支に関しては次の主張をしている。「国際経済は相互依存体制が原則なので、日本が化石燃料を輸入すれば相手国も潤う」「貿易のバランスがとれてこそお互い豊かになる」「外国産の製品を買えば国内産業とバッティングしてしまう。しかし、燃料を買うぶんには誰も困らない」と書き、安倍首相の「1年間で4兆円近い国の富が海外に出ていく。ずっと続けば大変だ」を経済学の基本を知らないと批判している。では、吉原は経済学を知っているのだろうか。
 国際貿易が相互依存という主張は何を言っているのか意味不明だ。貿易黒字の国もあれば、赤字の国もある。貿易はバランスしてこそお互い豊かになるに至っては床屋談義だ。貿易が2国間でバランスする必要はないし、する筈もなく、豊かになることとは何も関係がない。日本が輸入すれば相手国も潤うというが、日本が輸出しても、相手国は必要なものを入手するという意味では潤っている。貿易とはそういうものだ。国際経済、国際金融に関する基礎知識からすると不思議な議論が続く。
 外国産のものを買えば、国内産業とバッティングしてしまうが、燃料を買う分には誰も困らないというのは、何を言いたいのだろうか。貿易収支は、家計、企業などの各経済主体が個別に輸出入の選択を行った結果が単純に合計されたものだ。外国産の製品を買ったほうがよいと判断する経済主体があれば、そうするだろう。国内産業とバッティングするからという理由で製品の購入をやめる経済主体はないし、バッティングするのは当たり前だ。
 燃料の購入額が増えれば、電気料金が上昇するので困る人はいっぱいいる。国際収支、貿易の基礎的な理解が間違っている。燃料を買う分には誰も困らないという主張と安倍首相発言の批判は、吉原の同じ誤解から生じている。
 年間4兆円の燃料代の負担は、主として発電コストと電気料金の上昇の形で表れる。企業も家庭も大いに困ることになる。経常赤字が長く続いても、ファイナンスができる限りは問題ではない。しかし、長期に亘ればファイナンスに問題が生じる可能性は否定できない。安倍首相の言葉通りだ。
 貿易赤字が長期に続いても成長した国は過去多くあったが、投資率が高ければ経済成長は実現されるというだけのことだ。この事実と日本の化石燃料輸入による負担増の問題とは理論的に何も関係ない。吉原は、貿易赤字は問題でないということを、化石燃料の輸入増が問題でないと誤解し、さらに貿易赤字で成長できると誤解しているようだ。貿易赤字と経済成長には関係がない。
 原発ゼロを間違ったデータと理解に基づき主張するのは世の中に誤解を広めるだけだ。経営者が行うことではないのではないか。

「原発ゼロで日本経済は再生する」 
著者:吉原 毅(KADOKAWA/角川学芸出版)
ISBN-10: 4046534257
ISBN-13: 978-4046534255

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