ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第1回)
ミッシングマネー問題はなぜ起こるか
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
1-2 ミッシングマネー発生をモデルで示す
実際、電源の短期限界費用で価格が形成される市場では、必然的に固定費の回収不足、つまりミッシングマネーが発生する。このことを以下の簡略化されたモデルで説明する注2)。
モデルの前提は以下である。
需要:年間最大需要を2200万kW、年間最小需要を1000万kWとする。1年8760時間の需要を大きい順に並べてみると、図1-3のような右下がりの直線になるとする。この線を需要の持続曲線(デュレーションカーブ)と呼ぶ。数式化すると以下のとおりである。
D=2200-0.137×T [0≦T≦8760] ← -0.137=(1000-2200)÷8760
需要に不確実性はなく、この需要が必ず発現するとする。
供給:以下の3種類の発電技術が利用可能であり、これらを組み合わせで供給がなされるものとする注3)。
ベース電源(固定費大、可変費小) 固定費 2.4万円/kW/年 可変費(=短期限界費用) 2円/kWh
ミドル電源(固定費中、可変費中) 固定費 1.6万円/kW/年 可変費(=短期限界費用) 3.5円/kWh
ピーク電源(固定費小、可変費大) 固定費 0.8万円/kW/年 可変費(=短期限界費用) 8円/kWh
その他の前提:
上記を前提として、与えられた需要に対し最小コストで供給する電源ミックスを求める。
図1-4の上のグラフに、3種類の電源について、年間稼働時間と発電コストの関係を示す。年間稼働時間と発電コストの関係は以下の式で表現される。
Ci = Vi×T+Fi
Ci=電源iの発電コスト(円/ kW/年)
Vi=電源iの可変費(円/kWh)
Fi=電源iの固定費(円/ kW/年)
T=年間稼働時間(h)
i=b(ベース電源)、m(ミドル電源)、p(ピーク電源)
想定する稼働時間によって、最経済的な電源は変化する。ベース電源は固定費が大きく、可変費が小さいから稼働時間が長くなると経済性を発揮し、ピーク電源は可変費が大きいが、固定費は小さいから、稼働時間が短いところで経済性を発揮する。上記の前提の場合は、
年間稼働時間5333時間以上では ベース電源が最経済的
年間稼働時間1778~5333時間では ミドル電源が最経済的
年間稼働時間1778時間以下では ピーク電源が最経済的
となる。(図1-4の上のグラフ参照)
3種類の電源の稼働時間を、それぞれが再経済的となる範囲に収まるように電源を組み合わせれば、最小コストの電源ミックスとなる。図1-4の下のグラフに示す通り、ベース電源 1469万kW、ミドル電源 487万kW、ピーク電源 244万kW と組み合わせると最小コストになる。つまり、完全な情報を持った善意の独裁者が電気事業を行えば、この電源ミックスが形成される。
- 注2)
- 詳細は山本・戸田(2013)参照
- 注3)
- 実態として、電源の種類は更に多様であるが、ここでは3種類しかないと仮定している。また、電源種を更に細分化してもモデル計算の結論は不変である。
- 注4)
- つまり、図1-1と同じ前提である。
- 注5)
- 現実の電力市場は、前日スポット市場、リアルタイム市場、長期の相対契約、自ら電源を保有など電力調達の方法が様々あり、価格も多様である(一物一価ではない)。ただし、簡略化されたモデル計算であるので、相互の市場・調達方法の間で裁定が働くと考えて、一物一価の市場で代表させることは非合理ではない。