オバマ政権の環境・エネルギー政策(その15)

2009年予算教書時:排出量取引導入により2020年には14%削減


環境政策アナリスト

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 こうした経済見通しに関する各種レポートの結果、同法案に対する懸念は共和党内だけではなく民主党議員の間でも広がった。例えばブラウン上院議員(民主党:オハイオ州選出)、ランドリュー上院議員(同:ルイジアナ州選出)らは、同法案によって生じる自州の製造業やエネルギー産業の負担など、経済的影響に関する懸念を表明した。
 また、両氏とは別に製造業・工業州を代表する10人の中間派の民主党議員が、リード院内総務とボクサー環境・公共工事委員長にあてて、2008年6月6日付で書簡を提出した。彼らは連邦レベルのキャップ&トレードを支持、そのためのボクサー委員長の努力は評価するものの、今後のキャップ&トレード法案には以下の条件を必要とすると注文した。

1.
コストの抑制およびアメリカ経済への影響の低減
2.
新しい技術への投資と既存の技術の積極的な普及
3.
各州の公平な取り扱い
4.
アメリカの労働者家族の保護
5.
アメリカの製造業の雇用の保護と国際競争力の強化
6.
農業と林業の役割の十分な認識
7.
連邦と州の権限の分担の明確化
8.
キャップ&トレード収入利用の説明責任

 この書簡に先立つ2007年12月5日、上院環境・公共事業委員会はリーバーマン・ウォーナー法案を可決した。ここでも僅差であった。ボクサー環境・公共事業委員長は、少なくとも同月に行われたインドネシアのバリで開催されたCOP13に間に合わせようとしていると言われていた。しかし、結局、ボクサー委員長はバリへは行かなかった。理由は不明であるが、ひとつには僅差(賛成10票、反対8票)の可決であったため、上院内での求心力が働かないと判断をしたのかもしれない。
 しかしながら結果的にはリーバーマン・ウォーナー法案は2008年6月本会議での多数派工作に失敗し、廃案になってしまった。2008年秋は大統領選挙一色となっていたこともあり、ボクサー環境・公共事業委員長は、結果的に次期政権の連携での次の国会を待つこととなった。
 この一連の顚末を整理すると下記のとおりとなろう。第一には2006年以来の民主党多数の上院ではキャップ&トレードをベースにした気候変動法制を制定する流れが明確となったこと。第二には、米国で気候変動法制化において費用の抑制措置に十分意を払わないと成立は必ずしも支持を得られないということが認識されたこと。第三に、オークションにするか無償割当にするかがポイントであることである。
 特に第三の点においては、オークション派と無償割当派の意見対立が明確となった。オークションを主張する側はその収入を期待する一方で、無償割り当てを主張する側はなるべく多くの無償割当を得てトレードにおいて比較優位を得ようとする。後者は国際競争力の低下を恐れる産業界、前者は財政収入につながる当局である。電力会社の中には早々に「配電会社への無償割当てが望ましい」と主張する会社があった。
 発電量見合いでの割当だと化石燃料発電だけが対象となるが、配電量見合いの割当だと、原子力、水力や再生可能エネルギーといった非化石燃料からの発電が多い会社には相対的に有利になるからだ。またノースカロライナなどを基盤とする電力会社、デューク電力のジム・ロジャーズ会長兼CEOは「100%オークションは40%の電気料金上昇をもたらす。また、民主党対共和党という対立以外に地域間対立(地域によって電源構成が異なるので)を招く」とオークション導入を牽制するなど、早くからキャップ&トレードの制度設計を巡って侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が始まっていた。

気候変動法制に奔走したリーバーマン上院議員(民主党から中間派へ 右)その後引退

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