やっぱり心配! PM2.5はカラダにどんな影響があるの?

-海外での取り組み事例-


Research Committee on PM2.5 and Its Current Status

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 PMが健康に及ぼす影響については国内外において様々な研究がなされています。今回はPMが健康に及ぼす影響のメカニズム、及び海外におけるこれら取組についてご紹介させていただこうと思います。
 まずPMが健康に及ぼす影響のメカニズムです。
 呼吸によりヒトが吸入したPMの多くは、呼気とともに再び外部に排出されますが、一部は呼吸器内に沈着します。
 図1にPMの粒径による呼吸器内の到達部位を示しました。粒径の小さなPMは呼吸器の最深部である肺胞に到達し、その沈着割合も高くなる傾向にあります。肺の奥深くに侵入したPMが、人の健康に影響をおよぼすことは、健康影響指標と粒子の短期間および長期間曝露の関連を調査した研究結果から、数多く報告されています。

 Dockeryらは、米国6都市による調整死亡率比と様々の汚染物質の指標との関係を調査し、図2に示すようにPM2.5との間で、ほぼ直線に近い量一反応関係がみられたことにより、PM2.5の健康影響での役割の重要性が指摘されました。他にも米国がん協会(ACS)のデータを解析した疫学調査など、欧米の多くの報告がPM2.5は健康リスクに係わることを示しています。
 PMの健康影響は、これまでは呼吸器系への影響が主たる関心事でしたが、最近ではPMの物理化学的性状の多様性に関連して、呼吸器系のみならず循環器系、神経系、生殖系など幅広い健康影響が報告されてきています。なかでも心血管系への影響に関する報告の増加が顕著です。
 米国環境保護庁 (US EPA : United States Environmental Protection Agency)の1996年のPM AQCD (Air Quality Criteria Document for Particulate Matter )では、心血管系疾患への影響に関する報告は2件しかありませんでしたが、2004年のPM AQCDでは、心血管系疾患による救急外来受診、入院および死亡、心臓の病態生理学(心拍数の変動、不整脈、血圧、植え込み型心臓除細動器を装着した患者での除細動動作など)、動脈硬化の進展、血液凝固系への影響などに関する報告が多数紹介され、US EPAは、PM2.5への短期間および長期間曝露と心血管系疾患の罹患や死亡率との間に強い疫学的証拠があると評価しました。その後、これらの研究報告はさらに増加し、またこれらの影響メカニズムに関する研究も蓄積され、2009年のISA for PM 2009 (Integrated Science Assessment for Particulate Matter 2009)では、PM2.5への短期間および長期間曝露と心血管系への影響との間に因果関係があると評価し、PMが心血管系におよぼす影響の経路を、図3のように示しています。しかしながら、詳細な影響のメカニズムについては未だはっきりとはしていません。また、PMは複雑な混合物であり、物理化学的性状は発生源や気象条件などにより異なり、地域差が見られます。米国では、PMの物理化学的性状とPMの健康影響の多様性との関連を調べるために、Health Effects Institute(HEI)が、US EPAと共にNPACT (National Particle Toxicity Component Initiative)という研究プロジェクトを2007年から5年のプログラムで実施しています。これは、疫学と毒性学的研究を組み合わせ、PMの成分と健康影響との関連を明らかにしようとするものです。このように、世界中で実験動物やヒト曝露試験によるPM2.5の心血管系影響メカニズム解明のための研究が現在も進められています。



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