オバマ政権の環境・エネルギー政策(その7)
シェールガス革命を取り巻く政治情勢
前田 一郎
環境政策アナリスト
LNG輸出に関するオバマ政権の姿勢
米国国内にはシェールガスの輸出に対する反対論は根強い。エネルギー情報局年間エネルギー見通し(アウトルック)では米国のLNG輸出を2016年日量6兆立方フィートから始まり、2017年には日量45兆立方フィートに拡大すると見ており、その積み出し港はメキシコ湾岸とアラスカである。2013年エネルギー見通しでは2012年見通しに比して69%も増加している。ところが気をつけなければならないのはエネルギー情報局は単なる統計局であり、政治的な背景を持たないことになっている。現在、ホワイトハウスは米国LNG輸出について政治的に問題なしとみなしている。そのホワイトハウスの判断はエネルギー省が「公益に合致している」という結論を出すことに委ねている。現状では米国とFTAを締結している国に対してはそのままエネルギー省は認可を出さなければならないし、FTAを締結していない国に対しては「公益に反している」ということが見出されない限り輸出認可を出さなければならないとされている。「公益」は経済性、エネルギーセキュリティ、環境影響といった要因から判断される。そしてエネルギー省への申請はプロジェクトそのものへの要求事項を満たす必要がないという意味で申請者にとってコストも時間も比較的かからない。ただし、エネルギー省のプロセスは上記の判断基準からして高度に政治的である。
これに対して連邦エネルギー規制委員会は前章で述べたとおりLNG施設に関する許認可を担当する。したがってエネルギー省に比べ連邦エネルギー規制委員会は申請者にとってコストも時間もかかる。その代わり政治性はないプロセスである。もう一点はエネルギー省の許可は米国政府が個別のプロジェクトにコミットしたり、個別プロジェクトが商業的に成功するために支援するということを意味しない。一方、プロジェクト側は連邦エネルギー規制委員会、他の連邦機関、州機関、他の地域機関の必要事項を満たすための努力を傾注しなければならない。逆に言えばエネルギー省の承認が得られても成功するとは限らないのである。
2011年5月にエネルギー省はサビーン・パス液化施設の条件的承認を行った。ここで提起された重要な問題点は、行政上・政治上の先行事例を有していなかったのでエネルギー省がLNG輸出許可に当たって「政策基準」を設けるための必要な分析を行ったかどうかであった。その以来、エネルギー省はFTA非締結国向けLNG輸出許可に先立って増大するLNG輸出の国内影響のポテンシャルについて分析を開始している。そして2012年1月エネルギー情報局は、「増大する天然ガス輸出の国内市場への効果」という名前の分析レポートを発表した。第一部は米国ガスは現在審査中の申請をエネルギー省がすべて承認したら価格上昇が起こるかもしれないと示唆したものであった。第一部に続き、エネルギー省は包括的にそのマクロ経済に対する影響に関する分析を始め、2012年春には公表の予定であったが、大統領選挙後の2012年末に公表は延期された。このレポートでは複数の輸出シナリオを想定して米国はLNG輸出を許可することによってネットの経済的利益を得るという見通しが得られた。さらにひとつひとつのシナリオにおいてもLNGの輸出が増加すればするほどネットの経済的利益は増加すると分析され、LNG輸出支持者からは賛同を持って迎えられた。しかしながらLNG輸出反対派からはLNG輸出によるネットの経済的利益よりも国内利用によるネットの経済的利益の方がおおきいという批判が突きつけられ、天然ガスの増大によって経済的利益の最大化を図るオバマ政権として懸念事項となった。
その後の手続きとして最初のコメント受付をしたのちコメントのレビューとLNG輸出プロジェクト申請プロジェクトのケースバイケースのレビューに入った。エネルギー省は連邦エネルギー規制委員会の事前申請手続きに入った案件から審査に入る。エネルギー省の審査する順番は以下のとおりであった。1.フリーポートLNG(テキサス)、2.レークチャールズ、LLC(ルイジアナ)、3.ドミニオンコーヴポイント(メリーランド)、4.フリーポートエクスパンション、5.キャメロンLNG(ルイジアナ)、6.ジョーダンコーヴ(オレゴン)7.LNGデベロップメント(オレゴン)、8.シェニエールマーケッティング(テキサス)、9.エクセラレート(テキサス)。その結果2013年5月にフリーポートプロジェクトがエネルギー省によって非FTA向けLNG輸出(日量14億立方フィート今後20年間)として2番目の認可を得た。サビーンパスプロジェクトから丸2年かけてオバマ政権は慎重に対応したことになる。エネルギー省は2番目に掲げたレークチャールズ以降ケースバイケースで処理を進めていくとしている。同時に連邦エネルギー規制委員会はCE FLNG(ルイジアナ)、サザンLNG(ジョージア)、ガルフLNG(ミシシッピ)、サビーンパス拡張(ルイジアナ)、マグノリアLNG(ルイジアナ)の事前申請の処理を進めている。
このエネルギー省の決定にはいくつかのワシントン特有な政治的取引があった。そのひとつがすでに述べたモニーツ教授のエネルギー省長官指名人事であった。彼はLNGとしての輸出に前向きであると本人も周りも認めていた(本人はLNG輸出に政治的なバリアーを設けるべきではないと常にコメントしていた)。その指名がまったく関係ない取引(サウスキャロライナ州のMOX工場への予算問題)で一時棚上げになっていた。共和党側からの嫌がらせというよりも留保の意思表示であった。結果的には共和党側も指名に合意した。より重要なことはオバマ政権は大変慎重に政治的コンセンサスを構築するように進めてきたことだ。フリーポート、レークチャールズ、キャメロンなどのプロジェクトにように政治面でほとんど問題がないプロジェクトもあるが、一方でドミニオンコーヴ、ジョーダンコーヴなどのメリーランドやオレゴンのプロジェクトのように地元に環境面での反対が多いものもある。こうした声が議会を通じて上がってくることに十分目配りをしなければならないからだ。