MENUMENU

私的京都議定書始末記(その16)

-G8+3エネルギー大臣会合(2)-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


印刷用ページ

大臣会合前夜

 6月7日の5ヶ国エネルギー大臣会合はつつがなく終わり、ホテル八甲田で開催された歓迎ディナーでは甘利経済産業大臣が選んだミニロボットのお土産が大評判になるなど、大臣会合1日目は上々の滑り出しだった。各国事務方はそれぞれの大臣のお世話をしなければならないので、最終調整会合が始まったのは午後10時近くであった。

 私にとって大きなハードルである省エネ関連のパラグラフは決着済みであったため、それほど時間をかけずに最終セットができるものと思っていたが、ことはそう簡単ではなかった。原子力に関する書きぶりでドイツが土俵際の抵抗を示したのである。

 原案は以下の通りである。
19. We are pursuing different ways to achieve energy security and climate change protection goals. ①We recognize that a growing number of countries have expressed interest in nuclear power programmes as a means to address climate change and energy security concerns. This is because nuclear energy can serve as base load electric power supply, emits no greenhouse gas in the process of power generation and reduces dependence on fossil-fuels.

当時のドイツはメルケル首相の率いるCDUとSPDの大連立政権であり、主レーダー政権時の脱原発政策を維持していた(後に原発推進に路線変更し、福島事故後に再度路線変更することになる)。ハイリゲンダムサミットにおける原子力の記述は、以下のようなもので、「原子力オプションを検討している国は、原子力がエネルギー安全保障、気候変動対策に貢献すると信じる」という極めて中立的な内容になっている。

Those of us who have or are considering plans relating to the use and/or development of safe and secure nuclear energy believe that its development will contribute to global energy security, while simultaneously reducing harmful air pollution and addressing the climate change challenge

 ドイツの目から見ると上記の原案の下線部①はある種の趨勢を示すものであり、下線部②は、原子力のメリットをbelieve 等の主観を示す動詞を伴わない、客観的事実として記載しており、いずれも原子力に前のめりであると映ったらしい。事実、ドラフトをした私の思いは原子力についてもっとポジティブな位置づけをしたいというものだった。ハイリゲンダムサミットのような表現ぶりに戻すべきだというドイツの主張に対し、米国、日本、フランス等は、「原子力オプションを検討している国が増加していること、原子力がベースロード電力であり、温室効果ガスを出さず、化石燃料依存を下げることは、いずれも価値判断ではなく事実の問題。修正の必要なし」としてこれに強く反対した。ドイツ代表はベルリンとも相談する必要があるとして何度か会議を中断し、本国と連絡を取り合った。その結果、ようやく折り合った表現が以下の通りである。

19. We are pursuing different ways to achieve energy security and climate change protection goals. We note that a growing number of countries have expressed interest in nuclear power programmes as a means to address climate change and energy security concerns. This is because these countries take the position that nuclear energy can serve as base load electric power supply, emits no greenhouse gas in the process of power generation and reduces dependence on fossil-fuels.

 下線部のrecognize を note に、This is because の後に these countries take the position that を入れるということだ。何でも recognize に相当するドイツ語の erkennen は「真理を認識する」という語感があるらしい。「より多くの国が原子力に関心を有する」ことを「真理」として認識したくないドイツからすれば「留意する(note)」の方が望ましいということだった。他方、these countries take the position that については、ドイツ側は these countries believe that を主張したが、米国、日本、フランス等は「それでは主観的な語感が強すぎる」と反対し、結局 take the position に落ち着いた。ここらへんになるとネイティブの語感に頼るしかない。

 その他、細々した事項で調整を行い、最終的に皆の拍手の下でドラフトがセットされたのは午前4時前だった。翌朝9時から始まるG8エネルギー大臣会合のわずか5時間前である。皆に直前までの協力を感謝し、ドラフティング会合を終えたが、議長国の作業はそれで終わらない。そのまま作業室に行って、最終セット版が間違いなく共同声明案として配布されるよう手配し、併せて和訳、骨子を修正した。全ての事前作業が終わったときには朝になっており、そのまま大臣会合に突入することとなった。

ボドマン米エネルギー長官のねぎらいに感激

 一睡もせずに迎えたG8エネルギー大臣会合、G8+3エネルギー大臣会合は一言で言えば大成功だった。私は議長役の甘利経済産業大臣の後ろに座り、各セッションの議論を甘利議長がまとめる際のメモ出しをしていたが、友好的な中にもフランクな意見交換が行われ、良い会合だったと思う。悪戦苦闘の末、前日明け方にまとまった共同声明も無事採択された。

G8+3エネルギー大臣会合

 会合が無事終了し、各国大臣が議長国日本に感謝する旨の発言をしてくれたが、感激したのは米国のボドマン・エネルギー長官が「本日の会議の成功は、あそこに座っている事務方の努力に負うところ大」と言って私の名前をあげてくれたことだった。ボドマン長官と甘利経済産業大臣はこれまで3回会っており、相互に強い信頼関係が確立されていた。私も甘利経済産業大臣の事務方としてボドマン長官との会談にその都度立ち会ってきた。そんなことで顔を覚えていてくれたのであろう。この一言でそれまでの苦労が吹き飛ぶような感じがした。会合終了後、甘利大臣が「一緒にボドマン長官にお礼に行こう」と言って下さったのも嬉しかった。

 会合終了後、甘利大臣のご配慮で事務方を招いて夕食をご馳走になった。その際、なぜ ドイツがrecognize に抵抗したのか、といった話をしていたのだが、途中から猛烈な睡魔に襲われ、あろうことか、大臣の前で居眠りをしてしまった。大変失礼なことをしたと今でも汗顔の思いである。

記事全文(PDF)



英国で考えるエネルギー環境問題の記事一覧