オバマ米大統領、今再びの温暖化対策
-注目される米中の行動計画とCOP19の成り行き-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
なぜ今だったのか
なぜ今、オバマ大統領は気候変動問題への対応を積極的に打ち出してきたのか。そこには、シェールガス革命の影響が見て取れる。図1は米国の電源別発電量比の推移であるが、最近急激に石炭の比率が下降している。これはシェールガス革命によって安価な天然ガスが豊富に産出するようになったことによるもので、米国の電力業界で使用される石炭は約2億トン減り、その分はEUで消費されている。余談ではあるが例えばドイツでは、多額の費用をかけて再生可能エネルギーの導入を図っているものの、発電コストが安い石炭火力の使用により全体ではCO2排出量が増加するという皮肉な結果になっている。米国はシェールガスという温室効果ガス削減の「武器」を持った今、他国を巻き込んで温暖化対策に積極的になれる、なったほうが得だという読みがあったのではないだろうか。英ガーディアン紙注3)が指摘したように、環境対策をオバマ大統領のブランドとして改めて掲げる意図もあったであろう。この夏とも噂される「キーストーンXLパイプライン計画」の許可に向け、温暖化対策に前向きであるというイメージ・雰囲気を作っておきたかったという推測もある。また、第1期に多くの自然災害を経験したことも大きく作用したであろう。しかし根底には、それほど身を傷めずに達成することが見込めるようになったからこそ「いま、再びの温暖化対策」を持ちだしたと考えるのは、うがちすぎであろうか。
オバマ政権のこうした動きには当然のことながら、環境保護団体からは歓迎の、共和党からは反発の声が上がっている。ウォール・ストリート・ジャーナルは共和党トップのミッチ・マコネル議員の「雇用に対する宣戦布告にほかならない。今日の経済の中で苦労している多くの米国人の足元から、はしごを外すものだ」というコメントを紹介している。
しかし、反発や歓迎よりも多いのは、何が本当に実行できるか冷静に判断しようという動きであろう。私が今年4月にワシントンを訪れた際にインタビューした環境NGOの研究者は、第2期に入ったオバマ大統領が気候変動政策を強く推進できるかどうかについて懐疑的に見ていた。炭素税が導入されることはあっても排出権取引市場が創設されることはないだろうし、また創設されるべきではないと考えているとも語っていた。排出権取引市場のアロケーションはあまりに政治的な「補助金」であり、価格の不安定さも大きいというのが理由であった。第1期において、環境政策の産業振興・雇用対策としての効果を示すことができなかったオバマ大統領の実行力を、国民が冷静に判断しようとしていることが感じられた。
欧州での受け止めも同様に冷静だ。7月初旬、ロンドンで再生可能エネルギーの研究者に、ジョージタウン大学でのオバマ演説をどう捉えるかうかがったところ、「彼がこれから実際に何をするか、何をできるかが肝心だ」として、演説自体に何の評価もコメントもしなかった。
しかし、中国が排出権取引市場を立ち上げた直後のこのタイミングでの演説は非常に時宜を得ており、米中が今後「地球温暖化問題」をテーマにどのように手を組み、そして戦うのか。10月までにまとめられる予定の米中の温暖化対策行動計画、そしてその直後、11月にポーランド・ワルシャワで開催されるCOP19で、ここ数年停滞していた国連気候変動枠組み交渉がどのように動きだすかが注目される。
なお、大統領演説や行動計画は下記でそれぞれ御覧いただける。
- ・
- 大統領の演説全文
http://www.whitehouse.gov//the-press-office/2013/06/25/remarks-president-climate-change - ・
- 行動計画
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/image/president27sclimateactionplan.pdf - ・
- Presiden Memorandum
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/06/25/presidential-memorandum-power-sector-carbon-pollution-standards - ・
- 米中のHFCs規制合意
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/06/08/united-states-and-china-agree-work-together-phase-down-hfcs