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私的京都議定書始末記(その13)

-COP13とバリ行動計画(2)-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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同床異夢のバリ行動計画

 前回、バリ行動計画は原文に即して読む必要があると述べた。またまた長い原文引用で恐縮だが、12月14日深夜の閣僚折衝を踏まえて、紙になったバリ行動計画の重要部分とポイントを以下に示す。(○数字は筆者注)

1.
Decides to launch a comprehensive process to enable the full, ①effective and sustained implementation of the Convention through long-term cooperative action, now, up to and beyond 2012, in order to reach ②an agreed outcome and adopt a decision at its 15th session, by addressing, inter alia;
(a)
A shared vision for long-term cooperative action, including a long-term global goal for emission redcution, to achieve the ultimate objective of the Convention,in accordance with the provisions and principles of the Convention,④in particular, the principles of common but differentiated responsibilities and respective capabilities, and taking into account social and economic conditions and other relevant factors;
(b)
Enhanced national/international action on mitigation of climate change, including, inter alia, consideration of:
(i)
⑤Measurable, reportable and verifiable nationally appropriate mitigation commitments or actions, incluiding quantified emission limitation and reducion objectives, by all developed country Parties, while ⑥ensuring the comparability of efforts among them, taking into account differences in their national ciscumstances;
(ii)
⑦Measurable, reportable and verifiable nationally appropriate mitigaion actions by developing country Parties in the context of sustainable development, supported and enhanced by technology, financing and capacity-building;
(iii)
(iv)
⑧Cooperative sectoral approaches and sector-specific actions, in order to enhance implementation of Article 4, paragraph 1 (C) of the Convention;
(v)
Various approaches, ⑨including opportunities for using markets, to enhance the cost-effectiveness of, and to promote, mitigation actions, bearing in ind differenct circumstances of develped and developing countries;
(vi)
Evoomic and social consequences of response measures;
(vii)
(c)-(e) 略
 
2.
Decides that the process shall be conducted under a subsidiary body under the Convention, hereby established and known as the Ad-Hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention that shall ⑩complete its work in 2009 and present the outcome of its work to the Conference of the Parties for adoption at its 15th session.
3.-13. 略
 
 
 
“beyond 2012” の前に “now, up to and”がついているところがミソである。「2012年以降の枠組みにおいては、先進国のみならず途上国も温室効果ガス抑制に責任を果たすべき」という先進国の主張に対し、途上国は「そもそも先進国は気候変動枠組み条約上の『義務』である資金、技術移転を十分やっていない。2012年以降の話をする前に、現在の条約上の義務の履行状況を議論すべきだ」と反論してきた。それがこの表現に反映されている。”effective and sustained implementation of the Convention”という冒頭の表現についても、先進国は「条約の究極目標を達成するためには、先進国、途上国両方の努力が必要。それが条約の effective implementation につながる」と主張したのに対し、途上国は「そもそも条約の履行がきちんとなされていないのだから、sustained implementation こそ重要」と主張してきており、その両方が入った形になったわけである。
 
 
先進国は新たな交渉の場の成果物は京都議定書を超える新たな法的枠組みであるべきだと主張してきた。即ち、京都議定書は新たな枠組みに吸収されるというイメージである。これに対して新興国は、「交渉の成果を予断すべきではない。条約や議定書の形ではなく、COP決定のようなものでもいいはず」と反論した。彼らの義務が免除された京都議定書を手放したくない、新たな枠組みで途上国に義務付けが課せられることは絶対に避けたい、という動機からの主張であることは言うまでもない。 “agreed outcome and adopt a decision” という表現は、先進国の主張も途上国の主張も包含し得る曖昧なものであり、だからこそ、これで合意ができたということである。要するにAWG-LCAの交渉成果の法的位置づけはオープンだということだ。この “agreed outcome” という表現は、4年後のダーバン合意における2015年の成果を示す “a protocol, another legal instrument or agreed outcome with legal force”にも使われることになる。
 
 
この部分は「長期のグローバル目標の共有」よりも、もっと広く、「条約の究極目的を達成するための、長期のグローバル目標を含む長期協力行動のためのビジョンの共有」となっている。長期協力行動のビジョンには、地球全体の目標だけではなく、先進国からの資金、技術支援、適応等、あらゆるものが含まれ得る。実際、AWG-LCAが始まると、この部分の交渉では長期目標の共有どころか、温暖化交渉全体の小宇宙のように、およそありとあらゆる議論が提起され、全く収拾のつかない事態になった。先進国が「長期目標の合意」という議論をもちかけると「そのためには資金、技術移転が先決」という反論が返ってくるからだ。
 
 
いわずと知れたCBDRである。これが入ることで途上国特別扱いのあらゆる「免罪符」になる。
 
 
この部分は⑦と並べて見る必要がある。Measurable, reportable and verifiable という表現が両方に出てくる。 先進国については nationally appropriate mitigation commitments or actions, 途上国については nationally appropriate mitigation actions と違いはあるが、両者の表現は非常に近いものであり、米国が先進国と途上国のバランスを強く主張したことを反映したものと思われる。なお、先進国で commitments or actions となっているのは、米国が途上国とのバランスで先進国についても actions を入れることを主張したからだと思う。
 
 
先進国の間の努力の比較可能性(comparability of efforts)は非常に重要な表現である。京都議定書では日本、米国、EUの削減目標値はほぼ似通っていたが、目標達成に要する努力、コストは日本が際立って高いものであった。もとより何をもって比較をするのか、という問題はあるが、「努力の比較可能性」により、ある国が他の先進国に比して過重な目標達成コストを支払うことへの歯止めができたと言えよう。
 
 
⑤で述べたように、先進国とパラレルな表現が挿入されたことは成果であるが、”in the context of sustainable development, supported and enhanced by technology, financing and capacity-building” がしっかり入っている。要するに「途上国の緩和行動は、(その国の)持続可能な発展に悪影響を与えず、かつ、先進国からの支援(資金、技術、キャパシティビルディング)次第である」ということだ。しかも後述するように、このパラグラフの表現は全体会合で更に途上国に有利な方向に変わることになる。
 
 
「セクター別アプローチ」が入った画期的なパラグラフであるが、手放しで喜ぶわけにはいかない。Cooperative sectoral approach という表現がミソである。我々がセクター別アプローチを提唱していた際、先進国がエコノミーワイドの削減目標、主要途上国がセクター別の目標(例えば原単位改善目標)をコミットするということも一つのオプションとして考えていた。Cooperative が入ることにより、「先進国が途上国のエネルギー多消費セクターの原単位改善のために資金、技術協力等を通じて『協力』すること。途上国がセクター別の義務を負うことは含意されない」という解釈が成り立ちえる。途上国は、この後、「セクター別アプローチには賛成できないが、協力的セクター別アプローチなら良い」という主張を展開するのだが、それはこうした解釈に立っているからだろう。またCooperative が入ったことにより、ここでいう「セクター別アプローチ」は先進国と途上国の協力を対象とするものであり、「先進国におけるセクター別の削減ポテンシャルを積み上げ、実現可能な、現実的な削減目標を作る」というセクター別アプローチのもう一つの大事な要素が抜け落ちていることも見逃してはならない。
 
 
市場メカニズムが言及されたことにより、京都メカニズム以外の新たなメカニズムが議論できることになった。その後の交渉において、EUがセクター別クレジット、日本が二国間クレジットを提唱したのも、ここに取っ掛かりがあるからであった。
 
 
COP15(コペンハーゲン)に大きな期待が集まることになったのは、この文言が背景にある。ただ②で述べたように、2009年に作業を終了し、COP15での採択に供される成果が何なのかは、先進国と途上国の間で大きなパーセプションギャップがある。この点は、その後も繰り返し議論されることになる。

 このように、「バリ行動計画」は、異なる主張を取り入れた妥協の産物であるため、色々な解釈を許容するものになっている。国際交渉である以上、当然のことといえよう。我々は個々の文言を見て、「ここは日本の主張が通った」と主張するが、その同じ文面を見ながら「ここは我々の主張が通った」と言っている国があるであろうことも十分認識しておかねばならない。

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