ドイツの電力事情⑩ ―再エネ全量固定価格買取制度、グリーン産業、脱原発を改めて考える―


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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脱原発政策の進展

 日本ではドイツは完全に脱原発をしていると思われている方も多いが、実はもともと17基あった原発のうち、古いもの8基(福島原子力事故以前よりトラブルで停止していた1基を含む)を止めただけで、残りの9基は今でも稼働させており、その発電電力量は全体の約18%を占める(2011年実績。なお、2012年推計値は16%注10) )。
 「ドイツの脱原発に倣え」という主張には、この意味では賛成だ。彼らは健全な原子力発電所は稼働させている。定期検査の終わった原子力発電所が法的根拠もなく稼働ができない状況が続く日本の現状は異常であると思わざるを得ない。
 長期的にはどのようにして原発全廃に持っていくのか。まだ明らかではないが、ドイツの今後の電源計画を見れば、自国に豊富に算出する褐炭を中心とする火力発電をベースとしていく計画であることは筆者も以前で「ドイツの電力事情①-理想像か虚像か-」注11) で指摘しているとおりであり、温暖化政策との整合性には大いに疑問符がつくものの、原子力から再エネへという単純な構想でないことは明らかだ。ちなみに、2011年に「欧州の環境首都」に指定されたハンブルグで石炭火力の建設が進んでいることを報じるinside climate news注12)はハンブルグ州の環境大臣であるJutta Blankauにインタビューし、「2030年か2050年までドイツは化石燃料によるエネルギーを使わざるを得ない。ハンブルグ州というドイツの工業中心地においては再生可能エネルギーだけではやっていけず、石炭もしくは天然ガス火力発電所を必要としている」とのコメントを報じている。
 そして日本がドイツと決定的に違うのは、彼の国は隣国と送電線が連系しており、他国との電力融通が可能であることだ。
 エネルギー自給率が4%しかない日本において、再生可能エネルギーの導入拡大を図ることは重要であり、その点において全く異論はない。原子力という技術を放棄するのも、それが国民の総意ならば尊重されるべきだ。しかし、その場合には何を覚悟する必要があるのかきちんと情報を共有し、議論すべきだ。
 もちろん、どれだけエネルギーコストが上昇しても、再エネの導入や脱原発のためと国民が納得しているのであれば、その政策は「失敗」ではない。だからこそドイツ在住の川口氏が教えてくれる国民感情、例えば「全量固定価格買取り制度が失敗であったとは、ドイツ政府は認めないし、国民も認めたがらないだろうが、今となっては誰もが気づいている。」といった、政府公式見解などからはわからない国民の気持ち、実際この負担をどう感じているのかは大いに参考にすべき情報だ。「厚顔無恥」という言葉で議論を避けることは、原子力の安全神話に代わる、「再エネ神話」、「ドイツ神話」を作り上げることになりはしないだろうか。

注10)
ドイツ電源構成2012年推計値(BDEW)
http://www.bdew.de/internet.nsf/id/20130110-mueller-2013-ist-ein-wichtiges-jahr-fuer-die-energiepolitik-in-deutschland-de
注11)
国際環境経済研究所HP「ドイツの電力事情-理想像か虚像か①-」竹内純子
http://ieei.or.jp/2012/07/expl120711/
注12)
Inside Climate News 「Why Is Germany’s Greenest City Building a Coal-Fired Power Plant?」
http://insideclimatenews.org/news/20130724/why-germanys-greenest-city-building-coal-fired-power-plant

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