電力供給を支える現場力④

54の瞳 -中国電力 隠岐営業所27名が見守る電力設備-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 神々の宿る国島根の北東部に位置する島根半島から、約50km。4つの有人島と約180もの小さな島からなる隠岐諸島は日本海の荒波に浮かんでいる。島後島(隠岐の島町)、中ノ島(海士町)、西ノ島(西ノ島町)、知夫里島(知夫村)の4島合わせて約2万1千人(平成25年3月末現在)が生活する隠岐諸島への電力供給を担う、中国電力株式会社の隠岐営業所を訪ねた。 
 
 総勢27名の隠岐営業所を率いる月輪所長は、「小さな事故や故障等は、西ノ島に常駐している関係会社の方に対応してもらっているし、台風など予想できる災害に対しては本土から事前に応援要員を配備してもらっているから」と控えめな前置きを置いた上で、「ここでは本当にいろいろな経験ができる。いる人間とあるもので何とかしようとするから、これ以上無いトレーニングになる。所員全員が『隠岐電力株式会社』の経営者マインドを持っている。」と胸を張る。

 一帯の電気は、2箇所のディーゼル式内燃力発電所と2箇所の水力発電所、そして県営の風力発電所によって賄われている。島と島は海底ケーブル、あるいは海をまたぐ架空線で連系しているものの、本土からは独立した単独系統であるため、島の設備に何かあればこの島の中で何とかしなければならないのだ。台風や塩害、降雪など常に厳しい自然条件にさらされているため停電も多いのではないかと思っていたが、諸外国はもちろん国内平均と比較しても遜色ない実績であった。

 隠岐諸島の主力電源である西郷発電所は、無人運転の発電所で6台のディーゼル式内燃力発電設備を備える。それほど大きくない設備を多くの台数備えているのは、運用効率の向上の点からも、メンテナンスの点からも、そして、いずれかの発電機が故障しても致命傷にはならないというリスク分散の点からもメリットがあるという。
 ここでは毎年、夏の需要増大時期を前に、冷却器の清掃を行っている。冷却器は過熱するエンジンを冷却する真水の熱を取り除くために海水を使用しているのであるが、そのパイプの中にはフジツボやムール貝(ムラサキイガイ)といった美味しそうな邪魔者やヘドロがついてしまう。これを放っておくと冷却器のパイプを詰まらせてしまうことになるので、50度程度の温水を通して貝を死滅させ、その後治具で突いてすべての不純物を取り除く。こうした地道な作業をやっておくことで夏の需要増大時期にトラブルが発生することを抑えているのだ。この日現場を案内してくださった出雲電力所の滝山さんは通算7年隠岐島に勤務、斎藤さんも隠岐の島出身で通算20年間ここで勤務しているベテランだ。

西郷発電所の隅々まで知り尽くしている滝山さん、斎藤さん。
一緒にいらっしゃる時間が長いせいかなんとなく似ているお二人。。。

 翌日は、西ノ島と知夫里島をつなぐ架空配電線の鉄塔の航空障害灯取替え作業を見学させていただいた。高さ26mの鉄塔に架設された航空障害灯は1万時間ごとの取り換えを義務付けられているのだという。
 現場は地上で見守る2名と昇塔する3名の5名体制。安全確保のため、すべての作業について、事前に大きな声で喚呼。周囲の人間がそれに呼応して復唱する徹底ぶりだ。鉄塔の足元は切り立った断崖で、下を見れば足がすくむことは間違いない。しかし、着実に一歩ずつ、メンバーが息を合わせて昇っていく様は見事だ。入社2年目になったばかりの三谷さんを先輩たちが何くれとなくサポートする姿は、技術継承という言葉では言い表せないものを感じる。

高さ26mの鉄塔の上での作業が続く。
下から見守り的確な指示を出す大原さん。