MENUMENU

電力カラーリングへの期待と誤解


Policy study group for electric power industry reform


印刷用ページ

3.デジタルグリッドとは

 このように現在のパワープールの仕組みでは、発電所からの電気がプールに入った瞬間に混ざり合ってしまうので、厳密な意味でのカラーリングはできていない。ここで「厳密な意味で」としている理由は後述する。
 デジタルグリッドではインターネット(デジタル通信)と同様の仕掛けにより、カラーリングを実現しようとする。まず、現在のパワープールを小さなセルに分割する。そしてそのセル間を交流ではなく直流で接続する。そのための交直変換装置を、東京大学の研究者らはデジタルグリッドルーター(DGR)と呼んでいる注1)
 セル間をどのように電力が伝搬していくかを説明しよう。図3の右下のセルで電力を使用したいという情報(価格入札情報も含む)が出ると、セル間の情報網を通じてセル間を伝言ゲームのように電力要求情報が伝搬していく。このとき、DGRはまさにインターネットのルーターと同様に情報経路を制御(ルーティング)する役割を果たしている。電力の取引が成り立ちこの要求に答えるセルがあると(図中のPower Source CELL)、そこから電力を送るという回答が元のセルに返され、同時に電力の伝搬経路も確定する。そして経路上のDGRが動作して、送り側のセルのアドレス情報とともに、要求量の電力を伝送するという仕掛けである。これにより電力の受け手から見て、送り手が誰かがわかるわけだ。ちょうど、インターネット上を情報のパケットが伝送されるのと同じように電力を伝送することから、「デジタルグリッド」と名付けられたのだろう。

図3. デジタルグリッド中の電力伝送[1]

4.本当は難しい厳密な電力カラーリング

 デジタルグリッドではインターネットと同じように、ルーターを使って電気の流れを制御することで、電気がどこからきたのかをカラーリングしようとする。しかし、よく考えてみると、厳密なカラーリングはそれほど簡単ではない。
 例えばセルAからセルCに風力発電の電気を送るという要求と、セルBからセルDに火力発電の電気を送るという要求が重なると、途中のセルXの中で風力発電の由来の電気(緑色)と火力発電の由来の電気(黄色)が混在する。セルは小さなパワープールとなっており、そこに同時に注がれた電気は一瞬で混ざり合ってしまうため、セルXの電気は黄緑色になってしまう。これを避けようとすれば、すべての電力取引を別の時間帯や別経路(同じセルを通過しない)で送らなければならないことになるが、電気の取引は電力ネットワーク内では連続的かつ無数に行われるから、そのようなことは不可能だ。したがって、デジタルグリッドを使っても、実際には厳密な意味でのカラーリングは行われず、行いうるのは擬似的なカラーリングにすぎない。もし厳密にカラーリングを行おうとするならば、発電所と需要家を結ぶ専用線を敷設し、それらを交流・直流問わず、ネットワーク状には連結しないことが必要になるだろう。

図4. デジタルグリッド中で複数同時の電力取引

 また、実現性やコストの面でも、デジタルグリッドには大きな課題がある。デジタルグリッドのセルは、非常に小さいパワープールである。そこに風力や太陽光などから変動する電気が流れ込めば、セルの器が小さいために、その大きさに反比例して水位(周波数)は変動しやすくなる。このためセル内の水位を一定に調整することは、大きいパワープールの水位を調整するより遙かに難しくなり、そのための調整力(電力貯蔵装置)をセル内に十分に用意しておかなければならない。再生可能エネルギーを増加させるという課題については、既存のシステム上の対策よりもデジタルグリッド上での対策が高価となることを意味している。
 反対にパワープールを今より大きくすれば、そこに接続されている太陽光発電や風力発電の電気の流入量の変動がお互いに打ち消しあうことで、プール内に流れ込んでくる電気の総量に対する変動率は相対的に小さくなる。これを平滑化効果と言っているが、デジタルグリッドでは、現在のパワープールに比べて平滑化効果を活かしにくくなるので、再生可能エネルギーに対応するために必要になる電力貯蔵装置の量が格段に多くなる可能性が高い。欧米では電力取引の広域化や再生可能エネルギーの増加に対応してパワープールを統合させる方向で動いており、パワープールを細分しようとするデジタルグリッドの発想とは真逆のベクトル上にある。わが国の電力システム改革でも、広域的運営推進機関を作り、各社毎のパワープール運営をより密接に協調させようとしている。電力のカラーリングを導入しようとした動機として、冒頭述べたような再生可能エネルギーの利用を活発化させるということがあるなら、真逆を向いた検討であるということだ。

図5. 再生可能エネルギーの平滑化効果の例
注1)
デジタルグリッドの核になっている「ルーター」の考え方は、1995年に東北大学によって提案された「開放型電力ネットワーク」における「パケット電力ルーター」の概念とほぼ同様である。


電力システム改革論を斬る!の記事一覧