「電力システム改革」は「電力の全面自由化」
その前提条件は、再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の優先廃止でなければならない
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
電源構成のベストミックスは幻想に過ぎない
ここで、図1 との関連で電源構成のベストミックスの問題についても一寸触れておきたい。それは、安倍首相が、原発の存続の可否が電源のベストミックスの観点から決められるとしているからである。しかし、実はそんなものは存在しないのである。もしあるとしたら、それぞれの国にとっての最も安価な電力を供給するための市場経済原理に基づく電源構成比の選択についてであろうが、それは、国によって違い、また時間的に変化する。例えば、上記したように、日本において、現状で最も安価な電源は石炭であるが、図1に見られるように、その比率が世界の平均に較べて小さい値をとるのは、石油危機以前には、石油が石炭より安価であった時の名残が残っているためで、また、石油が高くなっても、石炭への変換が遅れたのは、日本には、大気汚染物質の排出の少ない石炭より高価な輸入LNGを使うことのできる国際的な経済力があったからである。このように、市場経済原理に基づいて決まるはずの電源構成も、図1に見られるように、それぞれの国のエネルギー資源の自給状況にも左右されて、年次的にも変化する。すなわち、この電源構成のなかで、いわば、政治的な要因で入ってくる原子力や自然エネルギーの最適比率は、本来、決めようがないのである。すなわち、現状の日本経済的の苦境のなかで、電力供給の安全保障を求めるのであれば、当面は、国民と国家の利益を守るための安価な石炭の輸入先国の多様化を図る努力をすべきであろう。
図1 各国の発電量ベースの電源構成、2009年
(IEA(国際エネルギー機関)のデータ(文献4)を基に作成)
「電力システム改革」の前提はFIT 制度の廃止でなければならない
反原発派の人々の発送電の分離の要求をかわす目的でつくられようとしていると考えられる今回の「電力システム改革」であるが、この改革の主目的である「小売り電力の完全自由化」を完全に否定するのが、前政権からの遺物「FIT 制度の適用による自然エネルギー導入」のエネルギー政策である。この「FIT制度」と環境省による無意味な規制がなくなれば、東京電力の入札制度による石炭火力発電の導入例に見られるように、国民と国家の利益を守るための「安い電力」供給が、現行の法制度の下でも可能なはずである。いま、この国の新しいエネルギー政策を創るためには、原発廃止、擁護のいずれの立場をとるにしても、また、発送電分離の実施とも無関係に、科学と経済の常識を完全に逸脱している不条理なFIT 制度の廃止こそが、全てに優先されなければならない。
引用文献;
1. 澤 昭裕;精神論抜きの電力入門、新潮新書、2012
2. 久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012
3. 竹内純子;ドイツの電力事情⑧――日本への示唆、今こそ石炭火力発電所を活用すべきだ、ieei 2013/03/25
4. 日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2012年版」、省エネルギーセンター