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英国のエネルギー政策は On Track なのか?


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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 しかも間欠性の高い再生可能エネルギーの大量導入はバックアップ火力を必要とする。しかし英国では電力市場が完全自由化され、事業者が供給責任を負わないため、経済的にペイしないバックアップ電源を持つ理由がない。このため政府による補助金が必要になる。政府がエネルギー法案の中でキャパシティメカニズムの導入を目指しているのはこうした背景によるものであるが、大手電力会社のSSEはキャパシティメカニズムの詳細が不確実な状況では新たなガス火力の投資などできないとしている。同社のマーチャント社長は「政府は英国が今後3年間に直面する設備容量不足のマグニチュードを過小評価している。英国は停電リスクに瀕している」と述べている。

 本稿でたびたび紹介してきたディーター・ヘルム・オックスフォード大教授はこうした政府の一連の施策を厳しく非難する。曰く・・・

過去、エネルギー危機はサプライズによって引き起こされてきた。英国のエネルギー危機はサプライズではなく、長期にわたる市場への誤解、誤ったエネルギー市場設計、誤った規制、マージナルで高価な技術への膨大な掛け金投入、政府の頑迷さによって引き起こされてきた。
これまでの英国政府の施策は、「石油・ガス価格はピークオイル、ピークガスにより上昇を続ける。風力や太陽光等の再生可能エネルギーに十分な補助金をつぎ込めば、規模の経済性でコストが低下し、化石燃料価格上昇とあいまって両者のコスト差はなくなる。英国は安価な風力発電の恩恵を受け、グリーン雇用を創出する一方、米国は高コストの輸入石油・ガスで疲弊する」との前提に立ってきた。
しかし、現実には米国はシェールガス革命によりエネルギー自立に向かい、エネルギーコストの低下により、エネルギー多消費産業が中国から米国に回帰しつつある。他方、英国では環境原理主義者が化石燃料へのロックインを防ぐとの名目でガス利用、なかんずくシェールガス開発を阻害してきた。上記の前提が崩壊しているのは明らかだ。
英国政府はEUの再生可能エネルギー指令等に基づき、高価な再生可能エネルギーを支援するための政策介入(補助金)、特定技術の「つまみ食い」(picking winner)を行ってきた。その結果、必要となるバックアップ火力を支援するため、更なる政策介入(補助金)を行おうとしている。この結果、複数の政策が重畳し、政策体系が複雑・高コストになっている。
こうした政策介入の結果、2015年までに全家庭の4分の1は可処分所得の1割をエネルギーコストに費やすことを強いられるだろう。
こうした事態を防ぐためには、EU再生可能エネルギー指令の再交渉とエネルギー法案の見直しが必要だ。エネルギー法案は複雑な施策の重畳を廃し、キャパシティマージン20%を目指したオークションを行うべきだ。炭素予算があるのであれば、トン当たり削減コストが安いものから調達すればよい。
しかし政府や再生可能エネルギー産業界はそうしたシンプルな方策を嫌うだろう。政府にとっては、高価な再生可能エネルギーに補助金をつぎ込んできたことが白日のもとにさらされるし、業界にとっては「真のコスト」が市場原理で明らかにされるからだ。
2015年の総選挙で保守党が勝利すれば、2017年にはEU加盟の是非を問う国民投票を行うことになる。このタイミングは、現在のエネルギー政策がコスト面でもセキュリティ面でも持続可能ではないことが明らかになる時期でもある。その大きな要因がEUのグリーン政策、再生可能エネルギー指令である以上、EUからの離脱圧力を強めることになるだろう。

 先のコラムでも書いたことだが、欧州経済の競争力低下が深刻な問題になっている中で、米国でエネルギーコストの低下が進むのとは裏腹に、エネルギーコストを人為的に引き上げる政策をいつまで維持できるのだろうか。説得力ある説明を未だ聞いていない。

 先出のタイムズ紙のトムソン記者は「閉鎖されたDidcot 石炭火力発電所の炉(cauldron)を文化遺産にしようという動きがある。それに成功すれば、英国が適切なエネルギー政策を実施していた時代の象徴になるだろう。他方、風力発電所は壮大なる緑の愚行(grandiose green folly)の象徴となるだろう」と評している。

「他山の石」とすべきではなかろうか。
Didcot 石炭火力発電所

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