停電と発送電分離を論じるための基礎知識
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
発送電分離下でパフォーマンスは維持できるか
これらと発送電分離との関係を考察してみる。
まず上記「a) 適切な投資やメンテナンスが維持されていること」であるが、少なくとも適切な投資やメンテナンスのコストは、託送料金等を通じて、適切に回収されなくてはならない。これは、発送電分離をしようがしまいが必要なことである。加えて、送電線の拡充についていえば、わが国において、送電線の建設は地道な用地交渉から始まる難事業である。これは発送電分離をしようがしまいが変わらない。したがって、発送電分離をすれば、再生可能エネルギーの系統接続が進むようなことを吹聴する論者がいるが、少なくともそんな簡単な話ではない。現にドイツでも再生可能エネルギーによる電力の送電に必要な送電線の建設はなかなか進んでいない実態を見れば、そうした「魔法のような話」は論拠を失う。(ドイツの電力事情⑤- 送電網整備の遅れが他国迷惑に-)
次に「c) 配電システムの自動化が進んでいること」については、発送電分離とは直接の関係はなさそうである。ただ、今後家庭用太陽光発電システム等、配電線に接続する変動電源が増えてくると、自動化システムを更に高度なものとしていくことが必要になってくることに留意が必要だ。
「b) 系統安定化リレーにより、設備が故障しても停電の広域化を未然に防止していること」及び「d) 相互に整合をとった迅速な復旧作業が出来ること」については、電力システム改革専門委員会報告書によれば、発電会社と送電会社の協調を定めるルールを今後検討することになっている。したがって、現在のパフォーマンスが維持できるかどうかは、現時点では未知数である。これについて、「発送電分離後は系統運用者が100%の権限を有するのだから問題ない」と主張する論者がいたが、発送電分離後に、系統運用者に権限が集中することは、特に非常時においては当たり前であり、問題は現場も含めてオペレーションが滞りなく行われるかどうかだ。権限さえあればその問題が解決すると言われても、実際現場等で働いている人たちから見れば、「机上の空論」だ。つまり、系統運用者が与えられた権限を行使するにあたって、それが迅速かつ的確に意志決定され、実行に移せる仕組みが構築できるかどうかである。「b)」については、迅速さがなければ、光の速さで伝搬する電気の系統の崩壊(ドミノ倒し)は防止できない。欧米では系統安定化リレーの設置は行われていないため(それ故に広域停電が発生するわけであるが)、発送電分離下で当該リレーを機能させることは、世界初の試みとなる。図1は極めてシンプルなイメージを示しただけであり、実際の系統でのルールは遥かに複雑なものとなるだろう。「d)」についても、米国の電力システムでもいつかは復旧するわけであるから、復旧そのものが出来ないことはない。求められるのは復旧の「迅速さ」である。米国並みの復旧時間では、「発送電分離しても問題ない」とはとても胸を張って言えるものではない。
発送電分離にはフリーライド解消の意味もある
上記「b)」に関連して、もう一点指摘しておきたい。「b)」のリレーによる調整や落雷リスクに対応した予防的な調整は、今まで電力会社の内部で行われ、外からは見えなかった。発送電分離をすれば、このような調整は、発電会社と送電会社の取引として外部化することになる。これまでは、この調整による追加コストは電力会社(の発電部門)が負担し、その結果高まった系統の信頼度のメリットは、新電力も含め、系統全体が裨益する。つまり、新電力は意図的かどうかは別として、こうしたアレンジメントにフリーライドしてきたことになる。発送電分離後は、送電会社が調整によるコスト増を一旦負担し、最終的には、系統利用者全体で負担する形に移行する。つまり、発送電分離には、これまで新電力がフリーライドしてきたコストを顕在化させる側面もある。そのコストがどの程度あるのかは、今後、発送電分離を前提に、発電会社と送電会社の協調を定めるルールを検討していく中で、明らかになっていくことになる。