コロラド州ボウルダ-市が市営電力事業を構想
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
米国コロラド州は、環境指向の強い州として知られている。米国では2013年1月の資料によると、29州とワシントンDCがRPS(総発電電力の内再生可能エネルギーからの電力が占める比率)を設定しているが、コロラド州は、RPSを2020年までに30%にするという目標の達成を州内の電力供給事業に課している。これはカリフォルニアの2020年までに33%達成に次ぐものである。
この州にボウルダ-市がある。コロラド大学がある大学街で、人口約10万という中規模の都市。ここの住民の環境意識が極めて高い。また、近隣の都市から離れていてまとまっている。これに着目したのだろうが、この地域に電力(ガスも)を供給しているXcel Energy社がコンソーシアムを作って、ボウルダーを全米最初のスマートグリッド・シティーにするという計画を2008年に発表した。同社は本社がミネソタ州のミネアポリスにあり、8つの州をまたがって300万を超える需要家に電力を供給する最大手の供給事業者だが、2010年に2万を超えるスマートメーターを市内需要先に設置して実証実験を開始したのだった。スマートメーターによる電力需要のコントロールすることによってこの市のカーボン排出を削減しようとすることから始まり、ハイブリッド電気自動車の電力を配電網との間でやりとり、太陽光発電の制御、などを行って、米国だけでなく世界の注目を浴びた。日本からの視察訪問者も多かったようだ。スマートメーターを利用した時間帯別料金制度の導入など、注目すべき実証も行われていた。
順調に進むかに見えたこの実証試験が頓挫した。当初1億ドルと想定されていたコストが大幅に増大してしまったのだ。コスト予想が誤っていたことについては、初めてのことだから仕方がないという好意的な意見もあったが、この計画の予算が州政府の認可を適切に受けていなかったとされるに至り、実証計画の推進ができなくなったのだ。
この問題が下敷きになってのことかも分からないが、2011年、ボウルダ-市議会は電力を自ら供給する市営電力事業を設立する計画案を僅差ながら承認し、今後の動向が注目されている。米国で地方自治体営(ミュニシパル)ユーティリティーは別に珍しくはない。例えばロサンゼルス市は、市の一部局が電力を供給している。だが、これまでの供給事業者を排除して自ら電力事業を行うという転換をするのは、フロリダ州に先例はあるが非常に異例のことである。
Xcel Energyが供給する電力の半分近くが石炭に依存している。まずこれがクリーンなエネルギーを使いたいとするボウルダ-市民の意識に反しているし、ボウルダ-にもっと自然エネルギーを導入してほしいとする意向を満足させるだけの動きを同社がしてくれないという不満が高まっていたのだ。2020年のRPSを30%にするようには行動していればそれで十分だろうというXcel Energyの姿勢を、環境意識の高い市民には受け入れ難かったようだ。
だが、この市議会の決議が実現するかどうかは予断を許さない。実現できないだろうとする意見が多いようだ。継承する送配電網の資産評価一つをとっても判定が極めて難しい。ただ、市民はこの方向に向けてある程度のコスト負担をすることは受け入れている。いまXcelとボウルダ-市当局の間で話し合いが行われているが、難航しているようだ。何らかの妥協が行われることになると予想される。
ボウルダ-市の動きを紹介したのは、現在日本で進行中の電力事業構造の改革・再編成の結果次第では、クリーンエネルギーの導入を推進したい市民が多い地域で、自治体単位の電力供給事業を構想することも可能となるかもしれないと考えたからだ。新電力からの電力購入に切り替える自治体が増えている。また、商社が自然エネルギー供給を主体とする新電力事業を始める動きもある。日本に、市民の意向を受けた電力供給事業を構想する自治体が現れてもおかしくないと言えないだろうか。