COP18の概要~産業界の視点(第2回)
手塚 宏之
国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)
ジェンダーバランスが気候変動交渉の最優先テーマ??
なお、今回ドーハでは議長国カタールのアッティヤ議長(カタールの行政監査長官で首相相当)がNGOから、イスラム教国である同国の「女性差別」を糾弾される場面があり(確かにアラブ諸国では一夫多妻制が合法的であり、女性閣僚や交渉官も見られない)、これに対してアッティヤ議長が突然「女性問題はCOPの最重要テーマだ」と宣言し、本会議採択文書の中でも、今後各国交渉団の女性参画比率の開示と向上を求めると共に、男女平等参画問題をCOPのテーマにすることを決議している。これは今後女性の幹部交渉官が相対的に少ない日本交渉団にも少なくない影響を与える可能性がある。
ジェンダーバランスは国連でもRio+20のような持続的発展のための目標を議論するフォーラムでは主要課題のひとつとしてとりあげられているが、地球温暖化問題に対処するUNFCCCの交渉の場に持ち込むべきテーマだったのかどうか、首をかしげる人も多かった。テーマを広げれば広げるほど、対処すべき問題が複雑化するのは避けられない。持続的発展が主要テーマになっているRio+20では、貧しい途上国の人々にも電力やエネルギーへのアクセスを保証し、衛生的で近代的な生活を確保すべきとの議論が繰り広げられていたが、人類が今手にしているアクセス可能な安価なエネルギー資源が化石燃料であるという物理的現実を考えると、地球上の70億人の人間が等しく電力や十分なエネルギーを使用するという社会をめざせば、温室効果ガスの排出増は避けられない。結局、そうした複雑に絡み合い、相互に矛盾している「倫理的に正しい」ことのバランスをとって、どう折り合いをつけていくかが人類に問われているという本質の議論は、UNFCCC-COPの交渉の世界ではほとんど行われていない。
以上が今回のCOPの概要と筆者の感じた印象である。次回は、政府間の交渉と平行して、民間ベースで行われたサイド・イベントについて簡単に紹介させていただきたい。
(つづく)