原発事故による放射性物質拡散を減らす手段(改訂版)
二瓶 啓
国際環境経済研究所主席研究員
まず、処理が必要な放射性物質の総量を推定する。使用前の核燃料のウラン235の濃度は4%程度で、これを1%程度になるまで燃焼させ原子炉から取り出す。国内にある使用済みの核燃料はガラス固化体換算で23,000個、1個0.5tとして総重量11,500tである。
原子炉では核分裂を起こした核燃料とほぼ同量の物質が生成する。そのうちで放射性を持つ物質の量は、投入した核燃料から生成した安定な原子(セシウム133とサマリウム149)と数時間で安定な原子になるヨウ素135、およびエネルギーに変化した質量分を除くと約15%になる。これを差し引いた残り、即ち分裂したウラン235(核燃料の約3%)の約85%が寿命の長い放射性物質である。国内の使用済核燃料の量から推定して、原子力発電によりこれまでに生成した核分裂生成物の総量は約300t、年に10-20tと見込まれる。
ただし現実には、例えば水溶液や吸着材など、様々な物質と混合した形で管理することになるので、この数倍~数十倍の重量になる。濃縮することができれば、放射能は高くなるが管理の対象となる絶対量は少なくできる。放射性という厄介な性質―これが問題なのではあるが―それを別にすると、毎年数億t発生して1,400万tほど埋立て処分されている産業廃棄物に比べて、物量としては桁違いに少なく扱いやすい量である。
2.放射性物質を原子炉から除去する方法
12月10日に掲載後に、燃料棒から核分裂生成物が漏れ出すことはないというご意見を頂いた。確かに現在使用されている核燃料棒は燃料ペレットをジルコニウムのカプセルに封じ込めてあり、今のままでは核分裂生成物分離が難しい構造になっている。福島の事故は冷却水が減って燃料棒が過熱破損して漏れ出した事故である。2-1)の文を以下のように修正させていただく。
1) ヨウ素、セシウムを稼働中の原子炉から効率的に分離する
原子炉圧力容器および循環している高温高圧の冷却水の状態は沸騰水型炉(BWR)で270-280℃ 7MPa(70気圧)、加圧水型(PWR)で400℃ 14MPa(140気圧)ほどと言われている。その中の燃料棒中に生成した核分裂生成物が全て封じ込められているはずである。
万が一燃料棒のカプセルが溶融破壊して爆発事故が起これば原子炉の高温蒸気と共に一気に放射性物質を放出、拡散して広範囲の汚染を引き起こすことになる。福島の事故はこれが起きたのである。
燃料中に封じ込められる放射性ヨウ素と放射性セシウムを減らすことができれば、万一事故が起きても放射能汚染をより狭い範囲に留めることができる。
ところで燃料棒は、水中で原子炉の稼働温度に耐え、ペレットが集合して臨界を起こさない構造であれば、現在の密閉形や材質でなくても良いはずである。形を変えてオープン構造にし、稼働中のカプセルから分裂生成物を出すことができるものとして、主な核種の状態を推定してみる。
ヨウ素は水に難溶性であるが沸点が低いので気体で存在していると考えられることから、排気を冷却すれば固形化するのではないか。一方、セシウム塩は水中で陽イオンとして存在し水に対する溶解度は高い。その化学的特徴を生かして分離できるはずである。
一方、ストロンチウム塩は水に溶けにくいので、核分裂で生成しても冷却水中に溶け出さないでほとんどが核燃料中に残っているはずである。
冷却水からのセシウムの除去手段としては、冷却水の水温を下げた上で、例えば限外ろ過や逆浸透技術、あるいはイオン交換樹脂、ゼオライトまたは活性炭などによる吸着分離などで処理する。放射性物質を扱うという点を除いて、汚染物質を冷却水から減らす対策としてはこれら既存の水処理技術の組み合わせで十分対応可能である。
なお、これらの技術は今後わが国が国際的に水処理事業を展開する場合に駆使する、必要不可欠の技術である。
一次冷却水からの無機物質分離技術の開発が進むことにより、わが国の原子力発電関連の安全技術が確立していくはずであるが、これまで再処理工場を別にして、原子力発電関連技術でこのような無機化学的解析が行われてきたのであろうか。