再生可能エネルギー全量固定価格買取(FIT)制度の正しい理解のために
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
太陽光発電の利用・普及にのみ寄与するFIT 制度
表2および表3には、FIT制度の導入後と導入前の各自然エネルギー源種類別の設備容量およびその発電可能量換算値と、それぞれの合計量に対する比率(カッコ内の数値)も計算して示してある。表3のFIT制度導入前の太陽光発電(住宅用)と同(非住宅用)の設備容量の合計量に対する比率は24.7(20.6 + 4.1)% を占めているが、発電可能量換算値では(住宅)で4.5 %、(非住宅)では僅か0.91 % にしかならない。これに対して、表2の導入予測値の合計に対する太陽光発電の設備容量は、(住宅)で45.5 %、(非住宅)で35.9 %、合計で81.4 % にもなり、発電可能量換算値でも合計59.5 ( = 32.7 + 26.8 ) % になる。
一方で、表3 に示すFIT 制度の施行される前の2011年度までの発電可能量で合計値に対する比率が約67.8 ( = 66.4 + 1.4 ) % をも占めている中小水力発電が、表2の年度末までの予測では発電可能量にして3.5 ( = 2.1 +1.3 ). %しかFIT 制度の認定を受けようとしていない。太陽光発電、特にその(非住宅)のメガソーラでは、今までの補助金だけでは事業として成立しなかったものが、発生電力の全量を販売して事業利益を得ることができるように決められた高い買取価格が保証されるFIT 制度が施行されたことで、待ってましたとばかりに認定申請が出てきたものと推定される。これに対して中小水力発電は、今まで地域電力の供給にFIT 制度なしでも実用化が進められてきていたと考えられる。FIT 制度導入以前の中小水力発電設備容量の値は表3 に示すように、約955 (= 935 +20 ) 万kWで、環境省の「調査報告書」(文献4 )の導入可能量1,444万kW(表3には、この発電量換算値82,221 百万kWhとして示した)の 約66 % にも達していて、FIT 制度の導入による新たな開発事業を推進する余地が少なくなっているのではなかろうか?また、火山国日本でその導入が大きく期待されている地熱発電の認定申請が予測をも含めてゼロなのは、一体何故なのであろうか?これらの自然エネルギー発電についても、事業化の経済性が成立するように固定買取価格が決められたはずであることを考えると、これらの事業化を積極的に進める意欲を阻害する何らかの他の要因が存在するのではないかと考えられる。
さらにまた、バイオマス発電が、既存量(表3)としても、導入予測量(表2)としても発電可能量合計の中で一定の比率を占めていることに注意したい。国土面積当たり人口密度の極端に高い日本において、エネルギー利用できる国産バイオマスは、唯一、国土面積の70 %近くを占める森林から生産される木質系バイオマス(木材)である。とはいえ、この木材の大部分の70 % 以上を製材用材やパルプ用材として輸入に依存している日本の現状では、国産木材の自給率を高める林業の創生による外材の輸入金額の節減とともに、国産材の生産とその産業用利用による内需の拡大、雇用の促進を図ることが優先されなければならない。すなわち、エネルギー利用可能な木材は、林業生産において製材やパルプ用材とならない廃棄物に限られるべきである。また、この木質バイオマス廃棄物のエネルギー利用の方法としては、その発電による輸入石炭の代替利用に較べて、熱エネルギー利用による灯油(輸入原油からつくられる)代替利用のほうが、化石燃料の輸入金額を4倍以上も節減できる。さらに、国産材を100 % 自給できる林業生産の体制ができたとして、その際に発生する木質系廃棄物を発電に利用した場合の発電量は、2010年度の原発電力量の8 % 程度にしかならない。詳細は拙著(文献5 )を参照されたいが、このような現実を無視して、自然エネルギー発電の事業化を支援するFIT 制度の適用により、木質バイオマス発電を推進すれば、本来、マテリアルとして利用されて輸入品の代替となるべき国産材が、より高い価格で電力用に買い取られて消失してしまい大きく国益を損なうことになる。いま、その創生が強く要望されている日本林業を、創生どころか、かえって衰退させることになり、貴重な国産木材資源の生産地としての日本の森林の崩壊を招くことになりかねない。林業廃棄物は、本来、その生産地において製材工場での木材の乾燥用や地域暖房用などの熱エネルギーとして利用され、発電への利用は、この熱利用での余剰が存在する場合に限られるべきであろう。
以上から、今回導入されたFIT 制度は、再生可能エネルギーの生産のなかで、固定買取価格が最も高く、国民の経済的な負担を増すだけの太陽光発電、特にメガソーラの生産事業を推進する目的に機能していると言わざるを得ない。 FIT制度による再生可能エネルギー電力の固定価格買取価格の設定に際しては、この電力生産による事業利益が保証されているから、今後も、メガソーラの設置認定を受ける量は増加することが推定される。しかし、環境省の「調査報告書」(文献4 )による太陽光発電(非住宅)の導入可能発電量換算値と記した値(表2。表3)は、公共建設物、工場や倉庫の屋根や壁、低・未利用地として港湾、河川敷、鉄道、道路の沿線、さらには耕作放棄農地など可能な限りの設置位置を利用した場合の値で、実際にはその1/3 程度の約45,033(=135,098×1/3 )百万kWhが限度と考えるべきであろう。この値は2010 年度の国内総発電量1,156,885百万kWhの3.9 % 程度、同年の原発発電量288,230 百万kWhの16 % 程度にしかならならない。もし、将来、化石燃料に代わる自然エネルギーをFIT制度の適用なしで導入しなければならないとしたら、それは、表2、表3 に示すように、導入可能量が太陽光発電の30倍近くもあり、経済的な可能性の大きい(文献2)風力発電が主体となるべきであろう。