COP18参戦記 day1 (12月2日 日曜日)
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
今後ともエネルギー政策において、気候変動が大きな制約要因であり続けることは間違いない。国際環境経済研究所では、従前と変わることなく気候変動問題を重要なテーマとして様々な提言や情報提供を行っていく方針であり、その参考とするため気候変動問題に関する最も大きな会議である国連気候変動枠組み条約交渉(COP18/MOP8)に参加させていただいた。全体で2週間の会議の後半1週間のみではあるが、現在世界の気候変動交渉がどうなっているのか、最新の動向をこの目で確かめ、できうる限り皆さんにお伝えしたい。
到着初日、ホテルに荷物だけ降ろして向かったのは、COPのサイドイベントとして開催された「ドーハ・ダイアローグ」。これは、日本経団連の他、米国、英国、ドイツ、イタリア、デンマークなど欧米各国や豪、インドなどの産業連盟によって構成されるBiz-MEF(エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国ビジネスフォーラム)とカタール商工会議所が共催した官民対話であり、カタールの環境大臣を始め、日・米・欧の政府関係者に国連気候変動事務局(UNFCCC)など、交渉関係者が広く集まった。2週間続く交渉の中日である日曜日の開催とはいえ、これだけ多様な、しかもハイレベルの交渉関係者が集まったのは、今後の気候変動枠組み交渉における官民連携の重要性に対する認識が高まっている事の現れであろう。
ファイナンス、技術のパートに続いて行われた適応策に関するパネルディスカッションを締めくくった経団連 環境安全委員会国際環境戦略WG座長(JFEスチール(株)技術企画部理事)手塚氏のコメントには参加者から多くの賛同が寄せられた。すなわち、防災投資や生活・行動様式の変更など、気候変動によって余儀なくされる適応策(例えば島嶼国における堤防建設等の防災投資、農業分野における作付け種類の変更など)については、ビジネスの分野に多くの知見蓄積があり、よりissue oriented(問題解決型)で取り組んでいくべきであるとの提言である。
温室効果ガスの排出は、国民の生活や経済発展に密接に関係しているため、政府がトップダウンで規制の枠組みを作ったとしても、実効性の点で問題が残る。これまでの国連交渉とそれに基づく京都議定書型スキームの限界は、以前の投稿にもまとめたが、高い削減目標を掲げたとしてもそれを達成しうる技術の裏付けがなければ、ただのかけ声でしかない。先に紹介した手塚氏のコメントを始め、官民パートナーシップの重要性を強調するコメントが次々と寄せられたことは、当然の流れと言える。
実は民間の技術を活用した実効性ある枠組みは、日本政府によりだいぶ前から提唱されていた。「セクター別アプローチ」は、日本が2007年初頭くらいから国内外で様々な議論を重ね提案した、ボトムアップ型の枠組みである。ベスト・プラクティス(最も効果的・効率的な手法)、ベスト・アベイラブル・テクノロジー(既存の最先端技術)によって達成される産業セクターごとの温室効果ガス排出削減量を特定し、技術移転及び先進国・途上国間または先進国間の協力により共有するというコンセプトである。例えばIEEIのHPでも以前もご紹介があった通り、日本鉄鋼業の効率は世界一である。またセメント部門においても、近年は中国・インド等新興国の技術レベルが向上して差は縮まりつつあるものの未だ世界最高効率を誇る。技術開発の努力に適正に報い、技術移転を促進する仕組みを盛り込むことができれば、非常に有効なアプローチとなりうるだろう。以前は「日本の技術を売り込もうとしている」と邪推され国際交渉の場で理解が広がらなかったが、今になって再び注目が集まりつつあるという。こうしたスキームの「提案力」で日本政府がどのような存在感を示せるか。今後の交渉を楽しみに見守りたいと思う。