第6回 東京ガス株式会社 エネルギー企画部 スマートエネルギーネットワーク推進プロジェクト室 室長 菱沼祐一氏

コージェネが核となるスマートエネルギーネットワークの挑戦


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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技術面や制度設計などの課題

――スマートエネルギーネットワークを進めていく上で、どのような課題がありますか?例えば技術面や制度設計の面などについてはいかがでしょうか?

菱沼:技術面では、せっかく集めた再生可能エネルギーを余すことなく使い切るためには、熱源機やエンジンなどいろいろありますが、制御は複雑になるため、制御をしっかりやっていくことが一番大事だと思います。

 やはり再生可能エネルギーを使うことは、それなりに高いエネルギーになるわけです。制度面としては、例えば太陽電池はFIT(再生可能エネルギー全量買取制度)のような制度ができて、優先的にインセンティブを与えて高い料金で買い取ることで普及を進めています。熱と電気の面的融通は、これまでのやりかたに比べるとコスト面でかかるため、エネルギー供給事業者として、なかなか事業運営が厳しいというのが正直なところです。

 これまで「エネルギーは安いものが一番」といった価値観がありました。もちろんコストは重要ですが、スマートエネルギーネットワークは、それ以外にさまざまな価値を与えることができます。例えば再生可能エネルギーが普及して低炭素なまちづくりができる、またはコージェネによる災害時の電源確保など不動産の価値を上げてくれる可能性もある。見えないエネルギーコスト以外のメリットがあるのです。そのメリットを皆で分け合うためにも、行政からご支援を頂く、またはディベロッパーの方にはコージェネによる熱と電気をプレミアを付けて買い上げて頂くなど、お互いがメリットを分け合う術はないかと考えています。

スマエネによって変わるまちづくり

――日本でのこれからのまちづくりでも、熱利用が多いところでは熱融通導管を整備するなど、根本的に町づくりを変えていくことも必要かもしれませんね。

菱沼:歴史的な経緯としてヨーロッパはもともと寒い国で、熱供給で建物全体を暖めるというコンセプトの中でコージェネを使ってきたことに対して、日本はそれより暖かい土地柄ですので、少々背景は違います。しかしパリでは、近年暑くなってきたため、蒸気の熱交換に加えて、最近では冷水導管を延ばすなど着々と熱導管の距離は延びています。  

 未利用エネルギーとして、例えば清掃工場排熱や工場排熱など、今まで冷却水という形で捨てていたものが世の中にはたくさんあります。そうした未利用エネルギーを社会インフラとして利用できれば、効率的で低炭素な、しかも将来化石燃料が枯渇した時でも必ず役に立つでしょう。50年100年にわたって、重要な社会インフラのひとつとして、まちづくりをしていく必要があります。我々も持続可能なエネルギー社会構築に向けて貢献していきたいと考えています。

――スマエネによるまちづくりがこれから各地で進むといいですね。

菱沼:住まいのスマート化、ビル・工場といった建物に対してのスマート化、それから今日見て頂いたような地域のスマート化、それぞれの場合に対して適切な効率のいい機械があります。熱を使い切ることが重要ですので、熱需要があるところにはコージェネレーションが入るチャンスが大きいです。熱導管にしてもコージェネレーションにしても、年間8700時間ある中で、できるだけ長い時間24時間フルに使えば、それだけ設備の償却、固定費負担は減ってきます。

 豊洲の市場に非常に面白い例があります。市場は夜から早朝にしかエネルギーの需要がありません。昼間は魚がほとんど売り切れてしまって、その間人がいなくなってがらんとなる。そうなると、市場だけでコージェネによる電気や熱の供給をやっても、稼働率は低いものになってしまいます。しかし、市場の近隣には昼間エネルギー需要が期待できる住宅棟や商業施設が作られる予定ですので、コスト的にも省エネ的にも有効な熱と電気の面的利用が図ることができるようになります。

――今後ガスを高効率に上手に使っていくことで、今の“エネルギーが足りない”という懸念も払しょくされていく期待感が高まります。

菱沼:ありがとうございます。原子力発電が止まった今、それを代替しているのは天然ガスです。まさしく天然ガスをいかに高効率に利用するか、そのときに、大規模集中だけでなく、こういったコージェネのようなオンサイトエネルギーシステムにガス空調も加えて、全体の最適化を図っていくのが、賢いエネルギーの使い方ではないかと思っております。

【インタビュー後記】
 千住テクノステーションは、前々から見学したいと思っていましたので、インタビュー当日は見学もあわせて伺うのを楽しみにしていました。広い敷地内に太陽光発電パネル、太陽熱集熱器、コージェネレーションシステム、熱源システム、見える化モニター・・等、充実した試験設備が整い、さらにこの分野についての関心が高まりました。そして、程良い興奮から落ちついた頃に、菱沼さんにインタビューさせていただきました。実証試験でのデータを積み重ね、細かな分析を元に、スマエネが日本のエネルギーシステムに今後大きく貢献していくことを自信をもってお話くださいました。政策面などの支援は大きな課題かと思いますが、分散型エネルギー社会構築の鍵になるであろうスマエネへの理解が広がっていくことを願っています。

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