核燃料サイクル対策へのアプローチ
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
第二のアプローチ「再処理、高速増殖炉を併用する漸進策」
2005年に策定された原子力政策大綱では、今後の使用済燃料の取扱いに関して次の4つのシナリオを定め、それぞれについて、安全性、技術的成立性、経済性、エネルギー安定供給、環境適合性、核不拡散性、海外の動向、政策変更に 伴う課題及び社会的受容性、選択肢の確保(将来の不確実性への対応能力) という10項目の視点からの評価が行われた。
シナリオ1: 使用済み核燃料は、適切な期間貯蔵した後、再処理する。なお、将来の有力な技術的選択肢として高速増殖炉サイクルを開発中であり、適宜に利用することが可能になる。
シナリオ2: 使用済み核燃料は再処理するが、利用可能な再処理能力を超えるものは直接処分する。
シナリオ3: 使用済み核燃料は直接処分する。
シナリオ4: 使用済み核燃料は、当面全て貯蔵し、将来のある時点において再処理するか、直接処分するかのいずれかを選択する。
この評価作業の結果、基本的にはシナリオ1が選ばれたが、2年程前に始まった本大綱見直しの作業のプロセス中に福島第一原発の事故が起こったため、その後の議論は紆余曲折し、原子力委員会が廃止されることが既定路線となる中で、今後直接処分オプションがどうなるのか不明である。
さらに、先日政府が決めた「革新的エネルギー・環境戦略」では、原発30年代ゼロを目指すとする一方で再処理事業の継続を打ち出したため、その不合理性が各方面から批判を浴び、事態は全く混沌としている状態だ。
日本は英仏から返還される予定のものも含めれば、既に約30トンの核分裂性分離プルトニウムを所有している。2003年8月5日の原子力委員会決定で、日本は利用目的のない余剰のプルトニウムは持たないとの方針を内外に明らかにしているが、使用済み核燃料を再処理して回収されるプルトニウムは当面MOX燃料にして既存の原発で使用しつつ、将来的には高速増殖炉で燃やす以外に、正当な所有目的を探すことは難しい。さらに、再処理せずに直接処分するとなれば、より問題は複雑化する。
米国が、上記の革新的エネルギー・環境戦略の方針について強い懸念を示したのは、同戦略を遂行した場合に不可避的に発生する余剰プルトニウムを日本はどうするつもりなのか不明であること、日本が厳しい査察を受けつつ、核燃料サイクルを目指すことを条件に、米国が非核保有国で唯一再処理の包括同意を与えている日米原子力協定の基礎が崩壊することが、その理由である。
先述した青森県との約束に加え、こうした外交的な信頼関係を維持するという観点からは、そう簡単に核燃料サイクルを放棄するとは言えないのが現状だ。特に、2018年に期限が来る日米原子力協定の延長を考えれば、ここ数年で確固たる方針を決定する必要がある。