第1回 石油連盟専務理事 松井英生氏

「石油」を分散型・自立型エネルギーとして位置づける政策を


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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系統から供給されるエネルギーは、震災等の災害時に弱く、分散型・自立型の石油は強い。ユーザーの利益確保の観点から電気、ガス、石油の公平な競争環境を構築していただきたい

――提言の中で未だ実現していないことは何でしょうか。

松井:石油は電力・ガスと違い純民間ビジネスですので、一定の量を普段からお使いいただかないと、サプライチェーンを維持できず、緊急時に対応できなくなります。一定量使うように国がサポートしてほしいという要請には、現在のエネルギー政策の議論では欠けたままです。原発と再エネの議論のみが行われ、最後の帳尻合わせは仕方ないから化石燃料だとなっております。化石燃料の持つ意味が全く議論されていないのが、我々の今回のエネルギー政策の議論に対する大きな不満です。原発の停止により、石油火力向け石油需要が震災後約3倍になっておりますが、その供給確保のために内航船の確保など大変な努力を行っております。急な需要拡大に対応することは大変難しいことですので、今後も普段から石油火力を相当量(15%程度)使っていただきたいと思います。

 5次提言は、ユーザーの視点からの提言です。ユーザーのそれぞれの視点で自分のベストミックスを考えて、エネルギーを選んでもらう。そのためには、国が特定のエネルギーだけ支援したり、一定の収益が確保できるように政策的な対応をするのははやめて頂きたい。例えば、震災時にも問題となったのが、ガスのコジェネや自家発電です。被災地からの要請の約3割が石油製品でした。特に病院や自治体では、ガスの自家発が止まってしまった。都市ガスがほぼ復旧するのに1カ月強、100%になるのに55日かかりました。一方、石油は3日後からこのような重要設備に関する供給要請に対して対応しました。三陸のように甚大な被害を受けた数カ所を除き、だいたい2週間でほとんど供給体制を回復できました。系統のエネルギーは震災等の災害時に弱くて、分散型・自立型の石油は強いと言えると思います。

 現在の政策では、石油系から天然ガスに燃料転換すると1/2、1/3の設備補助が出ます。あるいはガスのコジェネを入れると病院も含めて補助金が1/2、1/3出ます。補助金があればユーザーは結局そっちのエネルギーを選ぶでしょう。これに加えて電気事業とガス事業は法律で保護され、一定の収益が確保できるようになっております。電力は自由化の方向が出ていますが、都市ガスも同様に全面的に自由化して、電気・ガス・石油の公平な競争市場をきっちり創っていただき、ユーザーがコストや緊急時への備えや利便性やCO2などの観点を考慮して、そこから選ぶ仕組みが必要です。これまではエネルギーベストミックスというと供給サイドの視点でしたが、これからはエネルギーベストミックスを消費者、ユーザーの視点からとらえていくことが重要だと思います。ひとつのエネルギーに大きく依存することはリスクが大きいので、リスク分散を図っていくことが必要だと思います。そのためには、電気・ガス・石油をイコールフッティングにして頂き、ユーザーが自らの判断で選択できるようにしていただきたいと思います。

――イコールフッティングについて、具体的にはどういう問題がありますか。

松井:最近、CO2の観点からEVへの支援が講じられており、ガソリン車の評判が悪くなっています。しかし特に原発が稼働できない状況では、電気は火力発電で供給されますから、CO2の発生量がガソリン車とEV車と、ほとんど変わらなくなってきます。ですから、EVばかり支援するのもやめていただきたいと思います。同時に、CNG車(天然ガス車)もガソリン税と同じ様な燃料税が全くかかっていません。ガソリン税は元々、道路の補修や信号など社会的インフラ整備に使われますが、CNG車は4万台を超えています。普通のガソリン車より重く、道路を棄損する割合も大きいわけですから、公平な競争促進という観点も含め、CNG車燃料の税金をガソリンと等価にしてほしいと思います。