余りにも理不尽な再生可能エネルギーの固定価格買取(FIT)制度
この制度の廃止を強く訴える
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
地球温暖化対策として政治の要請により進められるようになった FIT 制度
この(2012年)7月から実施されるようになった再生可能エネルギーの固定価格買取(FIT)制度(以下、FIT制度と略記)を、最近、小野は、厳しく批判している(文献1)。ドイツやスペインを真似てつくられたこの制度による再生可能エネルギーとしての電力の生産では、電力の生産が事業として成立するように決められる電力会社による買取価格が、現状の市販電力料金を押し上げることになり、国内の産業や国民生活に長期間にわたり経済的に大きな負担を背負わせることになるとして、できるだけ早期に、「抜本的な制度改正」または「制度の廃止」を検討すべきであると訴えている。
このFIT 制度は、民主党が政権獲得のためのマニフェストに掲げた地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のためにその法案化を図ろうとしてきた「地球温暖化対策基本法案(以下「温対法」)」の三本柱の一つとされてきた。この三本柱とは、「環境税の導入」、「国内排出量取引制度」および、この「FIT制度」であるが、いずれも、主として産業界の反対と、政局の混乱のためにその法案化が阻まれてきた。
このFIT 制度による再生可能エネルギー電力の生産では、市販電力料金の値上げにより、国内産業の衰退をもたらすとして経団連などが強い反対を示す一方で、太陽光発電などの再生可能エネルギー開発関連産業の育成が内需の拡大と雇用の促進につながるとして、産業界の中には、その法案化に賛成する意見もあった。「エコ神話(地球の温暖化を防止するためには何が何でも日本でのCO2 排出を削減しなければならないとする)」に基づいて「鳩山 25% CO2 削減」の国際公約の実現を迫られていた政府は、電力消費の大きい製造業に対する電力料金値上げによる負担軽減策を打ち出すことを条件として、反対する経団連などの了解をとって、「温対法」の3本柱の中からこのFIT制度を単独で優先して法案化させることを決めた。この法案化の閣議決定を行ったのが、大震災の起こった3.11 当日の午前であった。
原発事故の発生によりFIT 制度の目的が国産電力の自給に変えられた
原発事故の発生により、その事故処理の不手際の責任を取らされた形で退陣を余儀なくされた当時の菅総理は、脱原発の態度を鮮明にするとともに、旧エネルギー基本計画の中で国産電力として位置づけられていた原発代替の電力として、自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー)電力が必要だとして、自身の退陣との引き換えで、このFIT制度の法案を国会承認させた(2011年8月)。この間、原発事故後、脱原発の態度を明らかにするようになった朝日新聞は2度にわたって社説で、この制度の必要性を訴えるなど、メデイアによる強力な支援もあった。
2012年7月のFIT 制度の実施に先立ち、自然エネルギー種類別の電力の買取価格の設定に当たって、それぞれの電力生産の事業化を図る団体や企業の要望をパブリック・コメントの形で受け入れることで、このFIT制度による電力生産での一定の事業利益が確保されるようになった。この制度の「調達価格等算定委員会」の委員長が「再生エネを推進するのがこの制度の趣旨だ」と明言したように、再エネ電力生産事業者の「言いなりの価格設定」が行われた(文献1参照)。結果として、太陽光発電パネルを設置できない低所得者が電気料金に上乗せして支払ったお金を、太陽光発電パネルを設置できる高所得者や、メガソーラの事業者への収益事業の資金として使われる仕組みになっている(文献2)。
しかし、国民の生活のために必要な原発代替の電力の生産について、国産にこだわらなければ、少なくとも現状および当分の間は、安価で安定に供給できる輸入石炭の火力発電がある(文献3参照)。国民の大きな経済的な負担のもとに、自然エネルギー電力に依存する必要はどこにもないはずである(文献3、4)。