新しいエネルギー政策における安全保障と自給率の限界

原子力と自然エネルギーはともにエネルギー自給の目的には貢献しない


東京工業大学名誉教授

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自然エネルギーの国産利用での大きな制約

 太陽光、風力、水力、地熱などの自然エネルギーを国産エネルギーとみなすことには、そのエネルギー源がいわば無限に近く存在することから、上記の原子力エネルギーに較べれば、確実に現実的と言える。しかしながら、国土の狭い日本では、その地勢学的条件等により影響される発電設備の導入可能量(ポテンシャル)には、かなり大きな制約があることも厳しく認識されなければならない。
 国内における各種自然エネルギーによる発電設備の導入可能(ポテンシャル)量については、環境省による詳細な委託調査研究結果が報告されている(文献4 )。この報告書に与えられた各自然エネルギー発電設備導入可能量、および設備利用率の値を用い、次式

(発電可能量)=(発電設備導入可能量)×(設備利用率)
( 2 )

により、それぞれの設備の発電可能量の推定値を概算し、さらに、現状(2010年)の発電量に対する比率の値を発電可能量比率として表1 に示した。ただし、ここでの値は、各設備について経済性を無視して実用化を図った場合の発電可能量の言わば最大値である。同じ表1中には、さらに、今回(2012年7月から)実施されるようになった自然エネルギーの利用・普及を推進するための発電量の固定価格買取(FIT)制度を適用して、市販電力料金の値上げの形で経済的な負担を国民に強いた場合の設備可能量の値から( 2 ) 式を用いて計算した発電量、および、その現状(2010年)国内発電量に対する比率の推定値も示してある。計算の条件、各エネルギー源の設備の設置条件、さらには FIT 制度導入での電力会社による買入価格等、推定計算の根拠等の詳細については文献5 を参照されたい。

表1 自然エネルギーのエネルギー源種類別の発電可能量と現状(2010年)の国内総発電量に対する比率の計算値
(文献4に与えられた発電設備導入可能量のデータを基に発電可能量を計算した。計算根拠等の詳細については、文献5 を参照されたい)

*1;
FIT 制度を導入した場合の設備導入可能量、および、それを基に( 2 )式から計算した発電可能量、同対現状発電量比率の値をカッコ内の数値として示した。
*2;
有効国産エネルギー比率iの略。

 この表1に見られるように、いま、日本で自然エネルギーとして最も大きな期待を集めている太陽光発電が、現状では、FIT 制度を利用してその普及を推進しようとしても、その導入可能量がゼロと、厳しく評価されていることに注意したい。これは、表中に同時に示した( 1 ) 式を用いて計算した有効国産エネルギー比率 iの 51 %という小さい値とともに、太陽光発電は、市販の電力網を通しての国産電力としての量的な貢献がゼロに近いことを明確に示している。
 また、この表1から、中小水力や地熱についても、FIT制度による支援を受けても、国内の発電可能量は現状の電力需要量に対してかなり小さい。唯一、可能性のあるのは、風力(陸上)発電であることが判る。しかし、この風力(陸上)についても、その立地が電力の主な需要地から遠く離れた北海道や東北地方などに限られ、送電網の設置には相当の時間と費用がかかる。
 以上、結論として、現状の原発分の電力を自然エネルギー電力で置き換えるためには、極めて大きな制約があると言わざるをえない。