ドイツの電力事情―理想像か虚像か― ①
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
送電線の建設状況
再生可能エネルギーの導入は、発電設備の導入コストだけを見ればよいわけではない。当然のことながら、土地利用確保にかかるコストに加え、送電網の整備やバックアップ電源または蓄電池の整備にかかる費用は、再生可能エネルギー導入拡大に伴う追加的コストとして認識する必要がある。
ドイツでは、風況の良い北海沿岸部に風力発電が集中的に立地しており、電力の生産地(北部)と消費地(南部)を結ぶ送電線整備が喫緊の課題となっている。政府は、”Power Grid Expansion Act”(注:筆者訳。正式名称は「Energieleitungsausbaugesetz」、
Energie(energy)leitungs(line)ausbau(expansion)gesetz(act))を制定して、手続きの簡素化を図っている。進捗状況(2012年5月4日時点)が下記の図だ。
しかしながら、送電線等の電力設備の建設はそれほど簡単に進むものではない。特に電磁波による健康被害を懸念する学説が出てからというもの、地元の反対が強まり、その用地交渉にも非常に長い時間を要するようになっている。「Energieleitungsausbaugesetz」の下で進められている24プロジェクトのうち15(下記地図のうち、黒字に白抜きの数字で番号を表示した部分)で遅延が生じているという。
国内の送電線増設計画が進まないために、風力発電所で発電された電力が近隣のポーランドやチェコに計画外に流入する事態がしばしばおこり、火力発電機の出力を下げるなど緊急対応を強いられている東欧諸国の電力会社4社から、本年3月「ドイツ南北の送電線増強工事が終わるまでは、ドイツ北部に再生可能エネルギー発電設備を建設すべきではない」という強いメッセージが出されたという。
なお、日本における風力発電の適地は、風況および大規模な土地確保の可能性から考えて北海道と東北の一部に限定される。このエリアに風力発電を導入・拡大した場合、地内の送電網整備だけで3,100億円程度、北海道と本州を結ぶ北本連系線等基幹送電網の整備に1兆1,700億円程度が必要と試算されている。政府のコスト等検証委員会は当該費用を含めずに発電単価を比較しているが、将来必要とされる国民負担に大きな違いを生じさせるものであり、正確かつ公平・公正な情報提供を行うべきだ。