いま話題の「リアルタイム市場」とは何か

-欧州式と日本式


Policy study group for electric power industry reform

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欧州式のリアルタイム市場への疑問

 欧州式のリアルタイム市場の仕組みは、従来からある電力供給システムの需給運用方法を素直に市場化したものであり、理屈は通っている。反面、リアルタイム価格はその時々の需給運用の結果、事後的に決まるものであって、事前に知ることはできない、つまり、価格に予見性がないという大きな課題がある。上記引用部分で、「当日急に発生した原因でシステム全体の電力需給が逼迫すれば、リアルタイム価格は高騰する」とあるが、これは正確ではなく、「高騰すると予想される」に過ぎない。これをほかの取引に例えてみると、次のようになる。
① 寿司屋に行って、時価モノの大トロを注文した。値段を訊いたら「食べたら教える」と言われた。
② 古本屋に本を持って行ったが、買い値は契約書にハンコを押してからしか教えてくれない。一回ハンコを押したら、買い値に不満でも解約できない。

 このような均衡価格が不確実な環境下では、大口需要家は、急に発生した要因で計画よりも電気消費を増やしたいと思っても、その追加負担がどれほどなのか、我慢した方がよいのか、事前に判断するのは難しい。また、今日は急に暑くなったから、電気を余らせれば高く買い取ってもらえるかも、と期待しても、みんなが同じことを考えれば、需給が改善してリアルタイム価格は当てにしたほど高くならないリスクを伴う。こうしたリスクを取ってまで、工場の稼働による利益とリアルタイム価格の水準との間でギャンブルをする企業がそんなにたくさんあるとは思えない。八田教授は前出資料の中で、こうした仕組みの導入によって「供給能力不足による停電とは永遠に縁を切れ」と主張されている。しかし、それが期待できるのは、情報が未来に起こることも含めて完全であり、価格が示されれば需給は一瞬にして調整される、という経済モデルの世界の中に限られるだろう。現実的には、八田教授が構想するようなリアルタイム市場では、「供給能力不足による停電とは永遠に縁を切れ」ない。

日本式リアルタイム市場は「市場らしい市場」

 他方、日本式リアルタイム市場は、受給の直前まで取引可能な市場である。日本式と言っても、英国や豪州にも類似の市場があるので、いわゆるガラパゴスではない。電力会社や新電力が手元にある予備の供給力を売りに出し、急な要因で需要が増えそうな大口需要家や電力供給者が買っていく。買いのニーズが多ければ、相場が上がる。相場を見て、市場から電気を買うか、買うのを我慢して自ら節電するかを決める。あるいは、相場を見て見合うと思えば、大口需要家は節電をして余らせた電力を買い札にぶつける。値段を見ながら売り買いを判断できるので、欧州式よりも市場らしい市場である。このような取引を実際の受給のできるだけ前まで継続できるようにすれば、需給ギャップは限りなく減らせる。完全にゼロにはならないが、極小化できれば、そのギャップを埋めるためのインバランス料金の設定-この料金設定が、新電力に厳しすぎるという批判が集まっている-は大きな問題ではなくなる。この市場が閉じた後の受給直前になって計画を大きく変えるのは、系統安定上も望ましくないから、リアルタイム市場がなるべく活用されるように仕向ける料金設定を行う必要がある。つまり、インバランス料金は、不足を補う場合はリアルタイム市場の価格より必ず高く、余剰を買い取る場合は必ず安く設定される必要がある。

 こうした制度設計による新たな市場は、欧州式リアルタイム市場よりも政策的な意義が大きい。ただしその前提として、(欧州式にも当てはまることだが)こうした市場によって形成される価格が、供給能力の不足などの原因で高騰したとしても、高騰する電気料金に対する世論の反応を気にして、政治的あるいは行政的な介入が行われる危険性を排除する法的な担保が必要だ。そうした担保がないかぎり、競争的な価格が実現するかどうか不確実になり、市場による需給調整も実現できないだろう。

(参考文献)

中部電力株式会社:広域での需給調整,送配電部門の中立性確保等の取組について 第4回電力システム改革専門委員会(2012 年4 月25 日) 資料5
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/004_05_00.pdf

八田達夫:ヨーロッパ式の制度から学ぶ逼迫時の需要抑制方法 第6 回大阪府市エネルギー戦略会議(2012 年4 月17 日) 資料1
http://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/cmsfiles/contents/0000159/159434/6.shiryo1.pdf

澤昭裕:価格メカニズムによる電力需給調整は万能か 「リアルタイム市場」への疑問点(前編)(2011年12月14日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20111221/225500/

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