電力供給・温暖化のトンデモ本に要注意!
データや理論をきちんと判断する姿勢が必要に
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
発電設備に関するとんでもない誤解
広瀬氏は、原発がすべて停止しても、水力や火力発電設備と卸電力からの供給で、夏場の最大電力需要を賄うことができるとの記事を、震災数カ月後に「週刊朝日」に寄稿した。卸電力の供給量のなかに、日本原子力発電の原発からの供給の数字が含まれていることについて、まったく検証していないうえ、設備は常に能力の100%の発電が可能との前提で数字が組み立てられていた。
実は、それは大きな間違いだ。水力発電所は水がなければ発電できない。夏場のピーク時には、貯水式のダムも揚水ダムもフルに活用されているが、流れ込み式の水力発電所は川に流れがなければ発電できない。水力発電所の稼働率は年間を通じても40%を切るレベルだ。揚水設備をフルに活用する夏場のピーク時でも設備能力の70%しか発電できない。しかも、梅雨の後は渇水期に入る。
火力発電所も故障とは無縁でない。特に、原発停止に伴って古い設備を稼働させたために、故障の可能性が高くなっている。国際エネルギー機関(IEA)が1979年に先進国での石油火力の新設を原則禁止して以降、日本で新設された石油火力は1基のみ。それ以外の石油火力は老朽化が進んでいる。まったく故障させずに運転するのは難しい。
水力発電も火力発電も、設備があれば100%発電できるわけではないという当たり前の話を、この広瀬氏の意見に対する反論として日経BP社の情報サイトに掲載したところ、多くのアクセスを戴いた。
その後、広瀬氏は原発がなくても水力発電、火力発電、卸電力があるから大丈夫という主張ができないと思ったのか、今度の本では話を変えてきた。日本全体では自家発電の設備能力が6000万kW以上もあるから、能力が5000万kWしかない原発がすべて停止しても供給可能と主張している。しかし、これはまったく現実を理解していない議論だ。
自家発電は工場などで電気を使うためにつくられている。夏場でも工場は動いている。供給可能な電気が、どれだけあるのだろうか。自家発の電気が余るのは、工場が止まっている夜間だ。しかし、家庭でもオフィスでも、夜間には電気はあまり必要ない。自家発の設備は確かにあるが、電気が必要な昼間に原発の代わりに使えるはずがない。電気は必要な時に必要な量を発電する必要があるという基礎知識があれば、成立しない話だとわかる。
ちなみに、自家発の設備は資源エネルギー庁のデータでは5600万kW程度で、6000万kW以上はない。広瀬氏は、自家発の数字を資源エネルギー庁が隠していると述べているが、同庁のホームページを見れば、自家発の設備能力はすべて掲載されている。いずれにせよ、自家発があるから電力供給が大丈夫というのは誤りと言える。