COP17を巡る諸外国の動向等について
手塚 宏之
国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)
中国は対等の義務や責任を負うべきと主張する米国
米国内では温暖化問題の存在、あるいはGHGが温暖化の原因であることを信じる有権者の割合が半数を割っており、国内の温暖化対策も遅滞している。米国の排出キャップと排出権取引を規定した「米国クリーンエネルギー・安全保障法案(いわゆるワックスマン・マーキー法案)」は成立の可能性がなくなり、代案としてオバマ政権が目指した大気汚染防止法に基づく環境省(EPA)規制も実施が先送りされている。したがって、米国がコペンハーゲン合意で提出した、2020年までに2005年比17%削減という目標の実現が担保される国内制度は機能していない。
加えて、過半数を制し下院を主導する共和党は、従来から国連プロセス懐疑主義(米国納税者の金が国連の巨大な官僚主義に無駄遣いされている)をとり、中国の経済成長による大国化(覇権)への警戒も強い。これが、中国と同じ立場の権利義務を求める背景ともなっている。
京都議定書に対しても、当時のゴア副大統領が1997年12月にCOP3で署名したものの、その時点で、すでに条約批准権のある米上院は全会一致で「途上国に同等の削減義務を課さないUNFCCC下の議定書は批准しない」との決議(バード・ヘーゲル決議 97年7月)を行っており、もともと米国が京都議定書の第1約束期間に参加する可能性はゼロだった。同決議は現在も有効であり、途上国に削減義務が課されないいかなる新枠組みにも米国が参加する見通しはない。
なお、米国と自由経済協定(NAFTA)を結び、米国と密接不可分な経済体制にあるカナダは、「環境・温暖化政策で米国と異なる政策を採ることはない」というのが基本方針となっている。最近の報道ではカナダも米国にならって京都議定書そのものから離脱する決定を年内にも行う計画という。
一方、環太平洋諸国の一つであるオーストラリアのでは、ギラード政権下で新たな炭素税(将来、排出権取引制度に移行)について、11月8日に上院議会で可決し、2012年7月1日の導入が確定している。将来的に欧州のEU-ETSと連携することが期待できるため、国内排出者に排出上限を課す根拠となる京都議定書は、国内政策的に容認できる状態だ。ニュージーランドは地理的、経済的関係の深さから、実質的にオーストラリアと同一行動をとることが国益になる。