COP17を巡る諸外国の動向等について


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)

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すべての主要国が参加する法的枠組みの成立目指すEU

 一方のEUは、複数の意見が複雑に絡みあっているのが実態だ。

 EU環境委員会とEU環境大臣会合は、環境至上主義に立ち「EUが世界のGHG削減行動をリードすべきで、そのためには率先垂範が必要。京都議定書の第2約束期間の義務も負うべき」としている。

 EU-ETS(排出権取引)制度に膨大な資産を投下してきた欧州金融界は、別の意味で今回の交渉に注目している。経済危機で需要が低迷し、排出権価格の暴落リスクに直面しており(この1年で排出権価格は半額以下になり実質的にすでに暴落している)、京都議定書の第2約束期間が設定され、EU以外の先進国にも削減義務が課されることで世界に排出権需要を創出し、排出権価格が底入れ(高騰)することに期待している。これは、排出権の金融不良債権化を懸念するEU金融当局も同じ立場と考えられる。

 英国では排出権価格のフロアプライスを設定することも検討されている。これも排出権価格維持のための動きだが、従来からの市場メカニズムによって「効率的に」削減が実現できるという新古典派経済学上の主張は影を潜めている。景気悪化により需要が低迷し価格が下落するのは「当然」の市場メカニズムのはずで、価格維持のために「介入」すれば、経済学的効率性は損なわれることになる。

 これに対し、産業界や南欧諸国は、GHG削減義務や環境政策が経済の足枷になることを嫌っている。財政当局もギリシャ危機に直面し、途上国への温暖化対策資金支援どころではないのが実情だ。

 こうしたなか、「無条件で京都議定書の第2約束期間への参加」を主張したEU環境委員会に対し、EUだけが突出して削減義務を負わないように「すべての主要国が参加する法的枠組みにむけた交渉マンデート(たとえば2013年から15年を移行期間とし、15年までに法的拘束力のある包括的枠組みを決めることに主要国が合意する)に合意する前提」がつけられた。同時に、京都議定書の第2約束期間に「コミット」するのではなく「オープン」であるとして、条件が満たされた場合に何をコミットするかについても留保し、米国やBASIC諸国から最大限の譲歩を引き出す戦略に移行している。

 また、カンクン合意に基づいて提出した、2020年までに1990年比20%削減という目標も、東欧諸国の参加効果などに加え、昨今の景気低迷から、追加的努力なしに自動達成可能な“ゆるゆるの目標”となっている。これを30%削減に強化することを狙った欧州環境委員会や金融界の動きは、ポーランドなどの強い反対から7月5日の欧州議会の投票で否決され、20%削減という「ゆるい」目標を維持している。