グリーン雇用という「神話」
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
グリーンエネルギーの真のコストは何か?
グリーンエネルギー導入の評価ではその発電コストが重要である。しかし、風力発電とガス火力発電を発電設備容量(KW)あたりのコストで比較しても意味がない。ヒューズ教授によると、英国の風力発電の稼働率は30%以下で、なかには20%に満たないケースもある。対照的に新しいガス火力発電は、稼働率が85%に達することも珍しくない。風力発電の稼働率が30%、ガス火力発電が85%と仮定すると、コストを比較するためには、50万kWのガス火力発電と140万kWの風力発電を比較しなければならない。しかも、時々刻々変化する需要に対応して発電する必要があるが(蓄電池という選択は、現状ではコスト面で現実的ではないことが多い)、出力が自然任せでコントロールできないグリーンエネルギーの導入量が増えれば、その出力が急激に落ちる場合のバックアップ調整電源のコストが無視できなくなる。
ヒューズ教授の分析では、初期投資額10億ポンド(約1200億円)のガス火力発電と同等の電力を風力発電によってつくるためには、関連するインフラも含めて95億ポンド(約1兆1000億円)もの投資が必要となる。もちろん、これは初期投資額であるため、燃料費の必要のない風力発電は、コスト面でも比較優位になるのではないかとの反論もあろう。しかし教授は「バックアップのガス火力発電は、待機中の効率が低いためにむしろ燃料費は逆にかさむことになる。この費用を考えると、燃料費に関する風力発電の優位も確かではない」と結論づけている。すなわち、バックアップ調整電源のコストは、その設備自体のコストではなく、グリーンエネルギー電源に賦課配分されるべきものだということだ。
ヒューズ教授は、英国の実例を基に、原子力やガス火力、風力などの発電源別に投資額あたりに生み出される賃金を分析している。詳細な分析方法は明らかではないが、10億ポンド(約1200億円)をそれぞれの発電源に投資した時の効果を計算したものが、下記の表1(Table2)である。表中の「A」は投資の直接効果、「B」は間接効果を含んだ結果である。
直接効果と間接効果で最も違いが大きいのは、水力発電である。水力発電の場合、建設費用が最も大きなコストになるため、建設作業員の消費効果が大きく見込めるのだ。しかし、その他の発電源を見ると、経済効果(投資額あたりの賃金)という点で、グリーンエネルギーが優れているとの結論は得られない。特に太陽光や太陽熱は他の発電源に比べて効果が少ない。したがって、このデータから見ても、グリーンエネルギーの推進が雇用に有利だとの結論は導き出せない。労働者に有利な投資を選ぶとすれば、水力発電を推進すべきだということになる。
それでも、グリーンエネルギーに多額の投資を行うことで経済効果を導くことが可能と主張する向きもあるだろう。しかし、投資資金は社会的便益創出力がより高い他の投資に向かうべきであり、社会全体にとってのマイナスをカバーすることはできない。
表1.水力発電への投資は作業員への配分が大きく間接的な経済効果が大きい