再生可能エネルギーは原発を代替できるか
手塚 宏之
国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)
「起きてしまった現実」と「不都合な真実」
つまり、ブレークスルー研究所の試算では、ゼロエミッション電源である原発の発電を、同様にゼロエミッションである太陽光発電、風力発電のいずれで置き換えるにしても、千葉県一つ分の全面積にわたって敷き詰め、しかも30~80兆円の投資をする必要があるという「不都合な真実」が指摘されているのである。
一方、より現実的な給電対策として原子力をすべて石炭ないしは天然ガスで代替する場合には3~8兆円の建設費に加え(再生可能エネルギーの場合より1桁安い)、現在の貿易黒字の20~40%もの資金を使って、毎年、海外から燃料を調達する必要が生じるうえに、CO2排出量は原発のある現在よりも10~17%増加するという、これまた別の「不都合な真実」を受け入れなければならないということである。
東日本大震災と福島原発事故という「起きてしまった現実」は、日本のエネルギー供給体制を根本から揺るがし、大幅な見直しをわれわれに迫っている。しかしそこには、決して「安価な」解決策も、「容易な」対策もない。現実の物理的・地理的制約、コスト負担、環境負担、ひいてはエネルギー安全保障と、それぞれ国民生活に極めて重要なさまざまなファクターが相反関係にあり、どれかを立てればどれかを犠牲にしなければならないというトレードオフの構造を持つなか、我々日本国民としては、どこに最終的な着地点を求めるか、これから「暑い」議論を繰り広げていくことを余儀なくされるのである。
(このシミュレーション計算は、米ブレークスルー研究所が一定の条件・係数のもとで行ったものであり、必ずしも日本の実態を正確に表すものではありません。計算に使われた条件・係数については、原文に記載されています。)