京都議定書は問題解決を遅らせる
日本は実質的な排出削減で世界に貢献を
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
排出権取引を守るために主張を変えた欧州
京都議定書では2012年までの削減目標しか決められていない。次の枠組みをどうするのかというのが、今の国際交渉の争点である。昨年の第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)では、コペンハーゲン合意という取りきめが成立した。ブッシュ大統領時代に京都議定書を脱退した米国や、これから排出が急増する見込みの中国など新興国も、自主的な削減努力をしていこうと合意したものである。
しかし、米国ではその後、経済不況を背景に温暖化対策に対する反発が強くなっており、オバマ大統領の指導力にも陰りが見え始めた。また中国は先進国の歴史的責任論を再び持ち出し、自国が削減する法的義務を負うことは考えられないと強硬姿勢に転じている。そうしたなか、各国はコペンハーゲン合意から大きく後退し、京都議定書の枠組みの下での排出削減を続けるべきだという、いわゆる「京都議定書延長論」が台頭してきている。
新興国など途上国は、そもそも京都議定書では削減義務が求められていないことから、京都議定書が延長されることは歓迎だ。一方、欧州は昨年まで、すべての国が参加する枠組みを目指していた。ところが、ここのところ急に、そうした理想の旗を降ろし、京都議定書の延長で手を打とうとする方針が表に出てきた。この態度変化の背景には、欧州が始めた国内排出権取引制度がある。
欧州の金融機関は、排出権の売買を通じて手数料や値上がり益を稼いでいる。もしも、京都議定書が延長されないとどのような影響があるだろうか。法的な義務が課せられる京都議定書が効力を失えば、日本のように削減義務が厳しい国が、義務達成のための排出権を買ってくれなくなる。その結果、そのような金融的利益がふっとんでしまう危険が出てくるのである。欧州がどのような理屈をつけてでも京都議定書の延長を受け入れる本質的理由がここにある、というのは国際交渉関係者の間では常識になっているのだ。
米国の立場はどうだろうか。米国は、京都議定書は途上国が削減義務を負っていないからという理由で、批准を拒否し脱退した。その状況は変化しておらず、今後とも京都議定書に戻ることはないと明言している。したがって、京都議定書が延長されるかどうかは自分たちに無関係だとして、無関心な態度でいる。本来なら、米国は新興国や途上国も入ったコペンハーゲン合意をベースに交渉していきたいところだろう。しかし、オバマ大統領のリーダーシップは、今年は期待できない。