原発再稼働の必要性と国の責任
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員/東北大学特任教授
(「産経新聞社 月刊「正論」12月19日」より転載)
柏崎刈羽(新潟県)、泊(北海道)の両原発についてそれぞれの知事が相次いで再稼働を容認する意向を示した。東日本では現状、女川原発2号機(宮城県)が稼働するのみだが、それに続く原発再稼働が注目されている。
原発再稼働の必要性
わが国は石油も石炭も天然ガスもほとんど産出しない。再生可能エネルギーの主力となる太陽光発電や風力発電に適した平坦(へいたん)な土地や遠浅の海に乏しく、日照や風況にも恵まれていない。福島第1原発の事故以降、世界に類を見ないスピードで太陽光発電を導入したが、2023年度のエネルギー自給率はわずか15.3%だ。
化石燃料の輸入に費やした国富は23年度には約26兆円と、原発事故前の2010年度の約16兆円を大幅に上回る。自動車や電子機器など高付加価値品の輸出によって獲得した外貨が23年には約28兆円であった。そのほとんどを化石燃料の輸入に費やしたこととなる。日本経済の立て直しには、この出血をできるだけ早く、できるだけ小さくする必要がある。原発再稼働は火力発電所で消費する燃料の量を減らすことができるので即効性のある止血剤だ。
加えて今後、データセンターの増加や半導体産業の成長により、電力需要は急増する可能性がある。自動車のEV化など、気候変動対策として電化が進展すれば、その傾向はさらに強まる。
東京電力のエリア内でデータセンターによる供給申し込みは31年までに600万キロワット超、37年では1200万キロワットに上る。このすべてが実現するわけではないが、発電所を新設するのでは急速な需要増には間に合わない。わが国のデジタル化や経済成長を支える上で、既存の原発の活用は極めて重要なピースとなる。
原子力技術は現在、中国・ロシアに席巻されている。建設中の原発の基数は中国が世界一だ。欧州諸国や東南アジアでも原子力活用に向けた動きがみられる中で、技術を同盟国および日本が供給できるようにしておくことは、安全保障上極めて重要だ。
原子力活用に向け必要な事
しかし一方で、原子力の活用を進めるのであれば、取り組むべき課題が多くある。
第1に、原子力利用に関する政府の方針を明確にし、関与を強化することだ。原発事故以降、原子力政策大綱は廃止され、いまわが国の原子力利用に関する方針はエネルギー基本計画で触れられるにとどまる。その基本計画には原発事故以降、「可能な限り原発依存度を低減する」と記載され、本年2月に策定された第7次計画でようやくその表現が削除された。技術の総合的利用に向け政府は長期方針を示し、原子力損害賠償制度や立地地域の理解・安心の獲得における国の責任を強化すべきだ。
柏崎刈羽原発が安全基準を満たしたとして、原子力規制委員会が許可を出したのは2017年末だ。そこから知事が容認を表明するまでに、8年近くを要している。立地自治体の意見は傾聴すべきだが、知事の同意は法的要件ではない。稼働の判断を実質的に知事に委ねる現状は、自治体に負担をかけすぎている。
第2に、原子力安全規制の改善だ。原発事故を経て日本の原子力規制は根底から見直された。安全に「これで十分」はあり得ないが、各発電所の安全性が相当高まっていることは確かだ。しかし、事業者と規制機関および規制機関内部のコミュニケーション不足をうかがわせる事象が起きている。柏崎刈羽原発は申請から許可まで4年3カ月、泊原発は12年もの歳月を要し、行政機関として審査活動の効率化や予見性の付与といった基本設計をやり直す必要があろう。このままでは安全規制が障壁となり次世代技術の利用が進まないという事態も起こり得る。
第3に、放射性廃棄物の最終処分地選定の議論を進めることだ。高レベル放射性廃棄物は国際的に、地層処分が適切との結論で一致している。既に試運転を開始したフィンランドや、建設中のスウェーデンなど先行する国もある。技術的な問題ではなく、地域の理解獲得という政治的な問題だ。「核のゴミ」といったネガティブな言葉がもたらすイメージを払拭し、原子力関連技術が集積する場として、合意形成を進める必要がある。幸い3自治体が文献調査に応募しており、今後も丁寧なコミュニケーションが期待される。
安定安価なエネルギー渇望
安定的で安価なエネルギーなくして生活も経済も成長もない。しかも脱炭素化も進めなければならない。GX・DXを掲げるからにはエネルギー補助金などの小手先でなく、国が原子力技術利用の覚悟を持つ必要がある。
今年は戦後80年、原子力基本法制定から70年となる節目の年だ。原子爆弾を投下されたわずか10年後に原子力の平和利用を決意したのは、わが国が二度と化石燃料の供給途絶によって辛酸をなめることがないようにという悲願があったからだ。この技術を利用する重みと責任を改めて考えたい。












