高市政権のエネルギー・環境政策を読み解く


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

印刷用ページ

保守的と言われる月刊誌「Will」は、「高市推し」の雑誌としても知られている。11月号と12月号の以下の主な記事のタイトルをみれば、記事を読まなくてもどれだけ「高市推し」かが分かる。

「日本を強く豊かに 初の女性総理誕生へ!」高市早苗

「日本の国力 高市なら↗ 小泉なら↘」高橋洋一/藤井聡

「お笑い小泉進次郎迷言録」

「救国政権の誕生だ」櫻井よしこ/門田隆将

「サッチャーのように迷わず進んでくれ」岩田温

私も「Will」にエネルギー問題に関する連載をしている。ちなみに私の掲載原稿は、11月号の「次期首相に問う 国民生活を豊かにするエネルギー戦略」と12月号の「経済成長のカギは急拡大する原子力市場」だ。

高市首相も、しばしば「Will」に寄稿されているが、その論考の多くは安全保障と経済に主眼が置かれている。高市首相は、自身のホームページで経済成長のため産業向けに競争力のある電気料金が必要と訴えているが、今まではエネルギー、環境問題に触れることは多くなく、総裁選立候補時のスピーチなどで断片的に語られているだけだ。例えば、「私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことに反対」とし、太陽光発電設備の無秩序な拡大と設備を輸入品に依存する現状を変えたいとの意思をはっきりさせている。

所信表明演説でも、エネルギー問題に以下の主旨で触れただけで温暖化問題には触れていない。

「国民生活及び国内産業を持続させ、更に立地競争力を強化していくために、エネルギーの安定的で安価な供給が不可欠です。特に、原子力やペロブスカイト太陽電池を始めとする国産エネルギーは重要です。GX予算を用いながら、地域の理解や環境への配慮を前提に、脱炭素電源を最大限活用するとともに、光電融合技術等による徹底した省エネや燃料転換を進めます。また、次世代革新炉やフュージョンエネルギーの早期の社会実装を目指します。こうした施策を直ちに具体化させてまいります。我が国の総力を挙げて、強い経済を実現していこうではありませんか。」

高市首相のエネルギー・環境政策の基本は

高市首相のいままでの発言から浮かび上がるエネルギー・温暖化問題に関する政策は以下のようにまとめられる。

経済性
経済成長を支えるエネルギー価格
競争力のある産業用電気料金の実現
安全保障
エネルギー・電力の安定供給‐生成AIによる電力需要増の中での供給確保
設備・重要鉱物の海外依存の脱却
温暖化問題
次世代革新炉、核融合、ペロブスカイト、地熱など脱炭素の新技術で対応

経済成長を支える競争力のあるエネルギー・電力価格の実現が高市首相の最優先課題のひとつだろう。例えば、与野党が合意したガソリンと軽油の旧暫定税率廃止は、家庭だけでなく、消費の4割を占める輸送業を中心とする産業の支援になる(図-1)。

一方、旧暫定税率の廃止に伴い、灯油と重油に対するリットル当たり5円の現在の補助金は廃止予定なので、エネルギー多消費型産業を中心に、そのぶん産業界の負担が増える。何らかの対策が必要かもしれない。

図-1 車種・用途別燃料消費量

エネルギー安全保障では、エネルギー関連設備と原材料の特定の国、具体的には強権国家への依存からの脱却が必要だ。現在中国が、太陽光、風力、蓄電池など再生可能エネルギー関連設備供給の覇権を握っている。例えば、風力発電設備の企業別シェアは図-2の示すように中国メーカが上位を占める。中国はレアアース、コバルトなどの重要鉱物でも覇権を持つ(図-3)。同盟国からの重要鉱物の調達を可能にする手段が必要だ。

図-2 風力発電設備メーカーシェア

図-3 重要鉱物の中国依存度

加えて、高市首相は「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目標とすると述べており、将来のAIとデータセンターを支える電力需要増のための電力供給設備の新設への取り組みも視野に入っているだろう。図-4が世界のデータセンター用電力需要増の予測を示している。

図-4 世界のデータセンター電力需要予測

高市首相は、温暖化問題への関心は低いようだ。温暖化対策は、原子力中心の新技術で乗り切るとの考えだろうか。しかし、新技術を社会に実装するまでには、時間がかかることも良く考える必要がある。一次エネルギーの8割を化石燃料に依存し消費量が増え続ける世界(図-5)が、25年でネットゼロに変わることが現実的ではないと考えられる中で、安定供給と競争力をどう実現していくのか、これからの具体策が注目される。

図-5 世界のエネルギー供給の推移