エネルギー環境教育の歩みと展望(その3)


京都教育大学名誉教授

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2000年代のエネルギー政策の一環としてのエネルギー環境教育の推進

 2003年にエネルギー基本計画が策定された。その中に「情報公開の推進・知識の普及」の項目があり、そこでエネルギー環境教育の重要性と推進の必要性が謳われている。
 「また、国は、様々な媒体、機会を通じ、エネルギーの重要性、我が国が置かれた状況等を国民に伝え、国民一人一人がエネルギーについて積極的に考えることができるよう知識の普及に努める。特に、次世代を担う子供達が、将来においてエネルギーについての適切な判断と行動を行うための基礎を構築するとともに、将来におけるエネルギー技術開発の担い手を育成するためには、子供の頃からエネルギーについて関心を持ち、正しい理解を深めることが重要であることから、エネルギーに関する教育の充実を図る。こうした取組に当たっては、関係行政機関、教育機関及び産業界が連携し、エネルギー関連教材やエネルギー施設の見学等の体験学習の充実等様々な工夫を凝らすように留意しつつ、 学校の授業におけるエネルギー教育の充実を図る。また、生涯学習の一環としてのエネルギー教育についても、そのための情報や機会の提供等を通じてその推進を図る。」
 この計画を実施すべく資源エネルギー庁は2002年度より三つの教育支援事業を開始した。その一つがエネルギー教育実践校の選定、二つが地域拠点大学の選定、三つが学校への講師派遣である。
 「エネルギー教育実践校の選定」は、学校単位でエネルギー環境教育に取り組むことを支援する制度で、選定された小学校、中学校、高等学校にそれぞれ3年間の研究実践を促した。折しもこの時期は、小中学校において「総合的な学習の時間」が始まった時期とも重なり、この時間におけるエネルギー環境教育の実践を期待していた。
 公募による選定という形で、応募する学校は3年間の研究実践計画を提出して審査を受けた。当初は、「エネルギー教育(エネルギー環境教育)」という教育のあり方がはっきりしていなかったこともあり、自然観察や水質調査といったような環境教育全般にかかわる活動の計画も多く提出されていた。この点に関しては、選定の条件としてエネルギー環境教育ではどのようなことが求められているのかを指摘し、その修正に対応できることを求めた。
 エネルギー教育実践校に求めた観点は次の三つである。

目的意識をもって、エネルギー教育に学校全体で取り組んでいく学校
学校という枠にとらわれず、学校・地域と連携してエネルギー教育を実践する学校
創意工夫のあるカリキュラムでエネルギー教育を実践する学校

 この取組が、エネルギー環境教育の普及・進展において大きな原動力となったことは間違いない。筆者は実施の5年後に実践校の研究動向と課題についてまとめたが、そこで課題として、「エネルギー環境教育のあり方に対する共通認識が必要」と「実践研究の方向を体系的なカリキュラム開発に向けていく必要」の2つを指摘した1)
 こうした課題に対処するため、資源エネルギー庁では、エネルギー環境教育のあり方に対する共通認識を図るべくエネルギー教育の視点を①エネルギーの安定供給の確保、②地球温暖化問題とエネルギー問題、③多様なエネルギー源とその特徴、④省エネルギーに向けた取組、の4つとした。①②はエネルギーにかかわる問題状況の把握、③④がその問題解決に向けた方策という構成になっている。この視点設定により実践校におけるエネルギー環境教育の実践内容が安定したように思われるが、①の視点からの実践が他の視点からの実践に比べて弱いという傾向が認められた。
 また、学校全体を通してエネルギー環境教育のカリキュラムを作成し、実践を進める学校も少しずつ増えてきた。木津川市立山城中学校は初期の実践校であるが、学校全体のエネルギー環境教育のカリキュラムに基づき系統的な実践を実現した学校である2)。また、同じく2004年からの実践校である仙台市立北六番丁小学校もエネルギー環境教育のカリキュラムづくりに力を入れ、それは2009年からの実践校となった仙台市立貝森小学校、2014年からのモデル校3)となった仙台市立館小学校、そして2017年からモデル校となった仙台市立南小泉小学校へと受け継がれ、体系的なエネルギー環境教育のカリキュラムへと結実した4)
 2010年までの実践校は小学校、中学校、高等学校合わせて500校ほどを数え、エネルギーの問題に着目するようになった学習指導要領が完全実施となる2011年度からのエネルギー環境教育の進展を待つばかりであった。しかし、2011年3月の東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の大事故により、エネルギー基本計画とともに教育支援事業の見直しが図られることとなり、エネルギー教育実践校の選定は中止してしまったのだった。
 二つ目の教育支援事業としての地域拠点大学の選定は、それぞれの地域においてエネルギー環境教育の普及・啓発の中核となる大学を設置しようとする取組である。その目的は①研究・実践のための組織作り(大学を中心に、地域の小学校・中学校・高等学校の教師、教育委員会、社会教育機関、エネルギー関連企業、エネルギー関連広報施設等で構成)②エネルギー教育に関する研究や実践の推進、となっている。
 長洲南海男氏は、2007年時点でのこの取り組みの達成状況として、達成十分4大学、試行中14大学、不十分8大学、組織中3大学、達成困難2大学という評価を下した上で、「基本的には拠点大学に関する活動は大多数の大学ではそれなりの成果を挙げつつあると見做せる」と結論づけている5)。地域拠点大学は2010年までにおよそ40大学がこの活動に参加したが、実践校と同じように2011年に中止となった。
 三つ目の学校への講師派遣については、実践校だけでなくエネルギー環境教育に取り組もうとする学校が、専門家を招聘したいという場合に対応できるようにする制度である。学校でエネルギーに関する授業ができる講師のリストを作成し、学校からの要望に応じて派遣する制度である。講師リストへの登録は応募という形をとったが、登録にあたっては事前に研修を行うとともに、模擬授業などを課して、講師が学校におけるエネルギー環境教育の授業に対応できるよう配慮した。実践校のみならず、多くの学校から講師派遣の要請があった。
 以上、2000年代のエネルギー政策としての教育支援事業について述べたが、これらの事業が日本のエネルギー環境教育の進展にとって極めて大きな役割を果たしたことは確かである。

1)
山下宏文「エネルギー教育実践校の研究動向と課題」『エネルギー環境教育研究』Vol.1-No.1、2007、p.20
2)
京都府木津川市立山城中学校『山城中学校のエコな挑戦–学ぶ力・教師力・学校力を育てるエネルギー環境教育』国土社、2007、187p.
3)
エネルギー教育実践校は2011年に中止され、2014年度からエネルギー教育モデル校という名称になり再開した。モデル校には100校ほどが選定されている。
4)
永井一也・長岐彩「エネルギー環境教育の体系化と教科横断的な学習の推進~仙台市立南小泉小学校の取組を中心として~」山下宏文編『持続可能な社会に必要な資質・能力を育むエネルギー環境教育』国土社、2019、pp.58-107
5)
長洲南海男「全国のエネルギー教育地域拠点大学の活動展開–日本エネルギー環境教育学会設立展開–」『エネルギー環境教育研究』Vol.1-No.1、2007、p.16