速報‐イベリア半島大停電の原因は?サイバー攻撃か再エネか、それとも・・


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 4月28日月曜日スペイン時間午前12時33分にスペイン、ポルトガルに加え、フランスの一部では欧州史上最大と言われる大規模停電が発生し約5500万人が影響を受けた。幸い長期化せずに全地域で23時間以内に復旧したが、停電が原因の死者が出たと報じられている。停電時にロウソクを利用した家庭で火災が発生し1人が亡くなった。携帯発電機を利用した家庭では一酸化炭素中毒で家族3人が亡くなった。
 突然の信号機の消灯により道路も大混乱したし、公共交通機関では鉄道、地下鉄の停止に加え、航空機の発着にも影響がでた。ポルトガルとスペインでは、それぞれ185と205の出発便がキャンセルされた。
 停電が起きれば、その影響はますます大きくなっている。スマホの普及により電子決済の利用が増えているが、停電では買い物もできない。今回の大停電では、電子決済が当然使えなくなった。ATMで現金を下ろそうとしても、使えない。現金がなければ、タクシーにも乗れない。商店の多くは停電により店を閉めたが、開いている店があっても現金がなければ買い物ができない。そんな中でも、開いている店では缶詰を含む食品、日用品が品切れになったようだ。
 携帯電話の基地局は非常用電源を備えているが、多くのメッセージサービスは使えなくなり、電話も通じにくくなった。スマホの電源が切れれば、情報も取れなくなるが、その前にWifiも多くの場所で使えなくなった。電池式の携帯ラジオが役立ったとの報道もあった。不測の事態に備え、現金を持っておくこと。大事な電話番号と情報は紙でも持っておくことが大事なようだ。

停電の経緯

 欧州の報道では、情報がまだ錯綜しており、停電の経緯についても複数の情報があるが、経緯は概ね次のようだ。
 4月28日午前9時半ごろから、マドリッドでは電力供給が不安定になった。周波数の乱れ、電圧の変動などが発生した。正午ごろには、変動の幅が大きくなり、1.5秒間に15ボルト電圧が変化する状況になったとされる。
 午前12時32分に、太陽光発電設備が多い南西部において供給力に変動があり、1.5秒後に違う箇所でまた変動があった。一度目の変動は乗り切ったものの、2度目の変動は供給力に影響を与え、一挙にその時点の発電能力の60%に相当する1500万kWの電源が脱落し、フランスとの連携線からの供給力も失われ、12時33分にスペイン、ポルトガル両国で大規模停電が発生した。スペインの送電管理者の電源脱落時のモニター画面はの通り。

 停電発生日の午後7時20分までに、影響を受けた内5分の1の地域で、真夜中までに約6割、翌日午前7時までに99%の地域で復旧し、午前11時15分に全面復旧した。

停電の原因は太陽光設備?

 電気は必要な時に、必ず必要な量を発電し供給する必要がある。供給量が多くても、少なくても停電する。停電はさまざまな理由で発生する。東日本大震災では、太平洋岸に位置する多くの発電所が被災し、供給力が不足し停電した。計画停電も実施された。吹雪、台風などの自然災害でも主として送電網が影響を受け停電することがある。
 今回の停電の原因については、スペイン政府の委員会と欧州委員会が調査することになったが、サイバーアタックの可能性はないとされている。サイバーアタックで停電を引き起こすことは可能だが、同時に多くの電源を喪失させることは理論的にはあっても、現実的ではないと指摘されている。
 いくつかのメディアが原因の可能性ありと指摘しているのは、太陽光発電設備だ。日照と風況に恵まれたスペインは、再生可能エネルギーの導入が進んでいる。地震発生直前には、太陽光発電が約61%、風力設備が約12%の電力を供給していた。太陽光発電設備の一部が脱落したが、再エネ設備からの供給が主力だったため慣性力を保つことができず、大半の太陽光設備が脱落したのではとの見方がある。
 慣性力は、同じ系統内で電源が脱落した場合に、残りの電源が周波数を維持しようとする力だが、発電機の中の磁石を回転し発電する火力、水力、原子力などの同期化力を持つ電源の特性だ。太陽光、風力は非同期化電源と呼ばれ慣性力を持たないので、電源脱落時に周波数の低下を招き連鎖的に停止し、停電を引き起こす可能性がある。日本の議論では非同期電源の比率が50%を超えれば、停電リスクが大きくなるとされている。
 今回の停電の原因は、調査結果を待つ必要があるが、あまりに増えた再エネ発電設備が影響を与えたのかもしれない。再エネ設備が増えれば、送電網の増強に加え、電源の脱落に対し備える必要もある。再エネが増えれば停電が起きるわけではないが、対策が必要なのは間違いない。競争力を持つ安定的な電力供給維持の中で、コストとリスクをどうバランスさせるか大きな課題だ。