実際の事例踏まえ、解像度高く ―EV×グリッド革命―

書評:著者「EV×グリッド革命」編集委員会「EV×グリッド革命」


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「電気新聞 本棚から一冊『EV×グリッド革命』」より転載:2025年2月14日)

 本書は、EV(電気自動車)と電力グリッドの融合がもたらすエネルギーシステムの転換について論じた一冊である。EVは単なる「移動手段」ではなく、電力の需給調整やエネルギーの有効活用に寄与する「分散型電源」としての役割を担うことに注目している。

 そのアイデア自体は新しいものではない。変動電源が大量に導入されれば、電力供給の基本である同時同量を満たすためには蓄電技術の大量導入が前提となる。しかし、電気を使うタイミングをずらすためだけに社会が負担する投資を最小化する必要がある。かつ「タイヤを履いたバッテリー」ともいわれるEVを活用することで、災害時のレジリエンス向上や人口減少社会に適したシステムへの転換も可能となる。新しい地域インフラの可能性が拡がると考えるのはむしろ当然のことだ。私も2017年に上梓した『エネルギー産業の2050年Utility3.0へのゲームチェンジ』でその可能性に触れている。

 しかし、こうしたアイデアを実現するにはさまざまな障壁をクリアする必要がある。本書の特徴は、実際にモビリティとユーティリティの融合に取り組む電力・自動車の専門家を中心とした執筆陣が実際の事例を踏まえた内容であり、解像度が高い点にある。

 EVは電力消費機器としての規模が大きい。これは電力システムにとって問題を起こす可能性(導入が進めば配電設備の増強等が必要になる、あるいは、通勤用のEVが夕方の帰宅後一斉に充電されれば太陽光発電の出力低下と相まって供給逼迫を起こす)もある一方で、問題の解決に資する(太陽光発電の余剰を吸収したり、災害の前に蓄電しておき供給途絶に備える)力も大きいことを意味する。

 欧州では、EVユーザーが電力市場に参加し余剰電力を売買するビジネスモデルも登場している。例えばオランダやデンマークでは、EVオーナーが車の電力をグリッドに戻し報酬を得るシステムが実装されつつある。しかし日本ではEVを活用した電力需給調整に関する制度設計が途上であり、規制の見直しや充電インフラの整備も不可欠。日本の自動車メーカーや電力会社がどのように連携し、新たなエネルギービジネスを確立するかが今後の課題となる。

 エネルギーとモビリティの境界が曖昧になる中で、ビジネスチャンスが生まれることはほぼ確実だ。地域インフラの再構築という文脈において、両者が果たす役割は大きい。業界関係者にとって示唆に富んだ内容となっている。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

日本電気協会新聞部