データセンターの導入を妨げるのは電力不足だけではない


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「エネルギーレビュー vol.528」より転載:2025年1月号)

 日本、米国、ドイツなど先進国の電力需要は、この10年間ほど伸びなくなり、波を打ちながら減少しているが、これからは先進国でも電力需要は大きく伸びると予想されている。国際エネルギー機関(IEA)の「ワールドエナジーアウトルック2024」によると、2023年から30年にかけて現状の政策を基にした場合でも、世界の電力需要は23年の29兆4790億キロワット時から、6兆7600億キロワット時増加する予測だ。

 電気自動車、ヒートポンプ導入、生成AI利用増による電力需要の増加もあるが、増加のうち80%は新興国、途上国が占める。一方、いま注目されているデータセンター(DC)の導入に伴う電力需要増は、変動の幅が大きく予測が難しいようだ。IEAは22年の世界のDCの電力需要を2400億から3400億キロワット時だったと推定しているが、2030年にかけて増加する需要増のうちDCの占める比率は10%以下と予測している。ただし、予測には約3000億キロワット時の幅がある。

 DCの電力需要の予測が難しいのにはいくつか理由がある。一つはDCの効率向上が不透明なことだ。GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット:画像処理装置)などの能力向上による節電効果を見通すのは困難とされる。さらに関連する設備の製造が間に合わず建設が遅れる可能性も指摘されている。AIの能力向上による電力使用増の見通しも難しい。例えばChatGPT3はグーグル検索の約10倍の電力消費だが、 ChatGPT4になると約100倍になる。ただ、高性能のAIがどれほど使用されるのか分からない。

 見通しが難しいDC需要だが、今後立地は地方に拡大すると予想される。すでに米国では、大都市の近くから人口もAIの需要も少ない州に立地が広がっている。ノースダコタ州、ワシントン州など石炭火力、水力発電などで安価な電力を安定的に供給可能な地域だ。米国は世界のDCの半分を持つが、米電力研究所の24年5月のレポートでは、その電力需要は23年の約1500億キロワット時からは30年に最大4000億キロワット時に増加すると予想されていた。

 だが、米国のDCの電力需要の予測量は、さらに増加している。コンサルタントのマッキンゼーが24年9月に出したレポートでは、30年の中間ケースで電力需要は約6000億キロワット時まで増加すると予想されている。ただし、マッキンゼーは、 GPU供給、資材調達の遅れに加え、地方での建設に際しては電気、機械技師を中心に40万人の労働力が不足する懸念があると指摘している。

 日本でも、地方でデータ処理が瞬時に必要な需要も出てくることも想定され、安定的に電力供給が可能な地域に、DCの立地は今後分散することも十分考えられるが、資材調達と人材の確保は大丈夫だろうか。なによりも心配は地方での人材だ。

 日本では人口減少が進んでいるが、働く人の数は増えている。23年には過去最高の6747万人だ。この背景には、高齢者と女性の働く人の比率が増えていることがある。女性の生産年齢人口の就業率は、米国よりもフランスよりも高くなった。働く高齢者も増えている23年の65歳以上の就業率は25.2%。欧州の主要国では、就業率は一桁の国が多い。日本では勤勉な人が多いことに加え、働く必要がある人も多いことが背景にあるのだろう。

 しかし、これから人口減少と高齢化は急激に進む。生産年齢人口、働く人の数はやがて大きく減る。建設関係労働者の雇用数は、すでに減少が始まっている。雇用が増えているのは介護を中心にしたサービス分野だ。人口が減少する中で電力設備、 DC、半導体工場の建設が進むことになる。日本でDCを需要に合わせ建設することが可能だろうか。日本の数少ない成長産業とみられるDCと半導体製造の問題は電力供給だけではない。