分断の時代のなかで
―「専門家と市民をつなぐアマチュアリズム」でー
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
時代認識
米国大統領にトランプ氏が再登場する。
左右の対立が激化し、お互いに相手を認めない「分断の時代」を迎えている。
トランプは「異形の大統領」と言われるが、果たしてそうだろうか?
昨年、米国を訪問した時、インフレに苦しむ市民の話を聞いた。
豊かなのは東部金融資本とカリフォルニアのIT事業家のみであり、民主党はラストベルトのプアホワイトの声を取り込めなかった。
市民は、バイデンの「デモクラシー」という理念よりも、トランプの「経済」を選択した。
大統領選挙直前に、民主党支持の米国人の友人と会ったが、「自分の知人は東部のエリートたちばかりで、中西部に住む普通の人はいない」と語ったのが印象的だった。
エコーチェンバー
わが国にも「分断」が存在する。
温暖化に関して、マスコミも二項対立である。特に原発については、新聞も懐疑派と推進派に別れ、自分の取っている新聞では、意見の異なる論調は読めない。若者は新聞を読まず、SNSで情報を手に入れるが、自分と同じ意見しか見ない。いわゆる「エコーチェンバー」といわれる現象が「分断」を一層激化させる。
われわれは何を頼ればよいのか
温暖化について、グテーレス国連事務総長は「地球は沸騰している」と危機感を煽るが、トランプはパリ協定を認めない。
専門家も擁護派と懐疑派に分断化している。
われわれ国際環境経済研究所は、温暖化対策やエネルギーを担当してきた企業、大学・研究所、官庁、ジャーナリズムの実務家が2011年に設立したVoluntary Associationである。
ともすれば理念的な議論になりがちな温暖化問題に関して、企業等の実態をふまえた発信を行ってきた。
実務家(アマチュア)の観点から、「専門家と市民をつなぎ、一定の専門性を保ちつつ、市民が理解できるようなコミュニケーションをとる良質なアマチュアリズム」というスタンスで、社会に発信してきた。
「温暖化対策を目指す」理念は大切だが、目標に向けての道筋は一本ではない。各国の置かれたエネルギー状況も異なる。
抜本的な温暖化対策には、技術革新を進めるとともに、経済合理性に基づく投資が伴わなければならない。
ボルテールの「寛容論」
われわれは、分断化のなかで、「環境と経済の調和のとれた」発信をしていく。
もっとも、異なる意見に対しても、門戸は閉ざさない。
フランスの哲学者ボルテールの「私はあなたの意見に反対だが、あなたがそれを主張する権利は守る」を基本的な姿勢にしたい。